「手榴弾110番」制度が導入される異常事態
立件には至っていなくても、警察が工藤会の関与を視野に入れて捜査している事件も多数ある。
2010年3月には、暴力団追放を前面に掲げる北九州市の北橋健治市長宛ての脅迫文が市役所に届いた。市長と周辺に危害を加えることをほのめかす内容だった。
2011年3月5日未明には九州経済界を代表する企業である九州電力と西部ガスの幹部宅に、相次いで手榴弾が投げ込まれている。西部ガス社長宅の手榴弾は不発だったものの、九州電力会長宅では爆発し、車庫などが破壊された。
この事件は現在でも容疑者逮捕に至っていないが、福岡県警は当初から工藤会の関与を視野に入れて捜査を進めていた。
事件から6日後の3月11日には、福岡県知事、福岡市長、北九州市長、福岡県警本部長、福岡県公安委員長が緊急トップ会談を開催し、工藤会との対決姿勢を鮮明にしている。
この時期、福岡県内に拠点を置く道仁会と九州誠道会(のちに浪川睦会、浪川会に改称)が抗争状態にあり、こちらでもやはり手榴弾が使われる事件が起きていた。
2011年は、福岡県内で手榴弾が使われる事件が全国最多の6件起きる不名誉な事態となった。
そこで福岡県警は、2012年4月から全国初の「手榴弾110番」制度を導入した。
通報にもとづいて手榴弾がみつかり、容疑者が検挙されれば、手榴弾1個につき10万円を目安に報奨金を支払うというものだ。
市民に対して戦場兵器の情報提供を呼びかけなければならなかったのだから異常事態というしかない。警察にとっても苦渋の決断だった。
まさに戦場状態! ロケット砲までがみつかった
2012年6月にも驚くべき事件があった。
福岡県警の家宅捜索により、北九州市戸と畑ばた区の住宅街にある木造2階建ての倉庫からロケット砲がみつかったのだ。
1発で小さなビルを壊すほどの破壊力があるものだというから絶句する。
軍事評論家は「きわめて危険な兵器。軍隊以外に出回っているとしたら衝撃だ」と驚き、県警幹部は「まさに戦場状態」と危機感をあらわにした。
私たち記者も、暴力団関係者に対して「いまの日本でロケット砲にどんな使い道があるのか?」と尋ねているが、「さっぱりわからない」という回答しか得られなかった。
福岡県警はこの倉庫に出入りしていた男を逮捕して、公判で検察は「工藤会の元構成員」と指摘した。
男は無罪を主張したが、実刑判決が言い渡されている。何のためにロケット砲を入手したのかはわからないままになっている。
こうした異常事態が続いていたことから北九州市はいよいよ“暴力の街”“修羅の国”というイメージが強くなっていたのだ。
ゼネコンなどは北九州進出に二の足を踏み、もともと深刻だった人口減少にも拍車がかかった。行政や市民はこうした負のイメージに悩まされ続けていくことになる。