勉強好きじゃないんですと坂川は笑う。その後は建築現場などで働き、結婚を機に一度は仕事をやめた。育児が一段落してまた調理などの仕事をしていたある日、街を車で走っているとビルの清掃をしている婦人たちの姿が眼に入った。
「なんか楽しそうに掃除しとーなーって。掃除だったら主婦の(仕事の)延長だよねー、みたいな軽い感じで、『さんびる』に入ったんです」
さんびるは1977年設立、山陰を中心に中国地方でビル管理、清掃業を手がける企業である。山陰地方でテレビコマーシャルを流しており、坂川は親近感を感じていたという。今から約7年前のことだった。
「掃除だからできるだろうと軽い考えで入ったら、深かった。こうしたらもっと時間が短縮できるとか、綺麗になるとか突き詰めていくと面白くなった」
2020年秋、坂川は取締役である樋口純一から呼び出された。とりだい病院で障がい者をスタッフとした新しい事業が立ち上がることになった、そのまとめ役――“サポーター”になってくれないか、というのだ。
「自分の気持ちもぶつけなさい」
始まりはとりだい病院総務課からの働きかけだった。
とりだい病院で障がい者雇用に力を入れているが、なかなか定着しない。障がい者の方がやりやすい仕事――清掃業を検討しているので相談に乗って欲しいという打診だった。
樋口はこう振り返る。
「我々の会社は2001年ぐらいから障がい者雇用に積極的に取り組んできました。お掃除をメインにして市役所や病院などで、“サポーター”をつけて障がい者の雇用を継続してきました。
ただ、とりだい病院からの提案は病院で雇用するという前例のない形でした。清掃技術を教えるノウハウはありますが、障がい者の方を集めるとなるとまた別の話になる。そこで障がい者就業生活支援センターに入っていただくことになりました」
米子市の障がい者就業生活支援センター『しゅーと』が募集、とりだい病院が希望者を面接して採用、さんびるが清掃指導を担当するという形を取ることになった。