沖縄返還から半世紀、核をめぐる日米の「密約」を生々しく物語る新文書が見つかった。そこに書かれていたのは――。

徹底検証 沖縄密約 新文書から浮かぶ実像』より一部抜粋。佐藤栄作首相の「密使」として重要な働きをした国際政治学者・若泉敬氏が遺した文書に迫る。

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佐藤首相とニクソン大統領が署名した“核密約”の原本は今どこに…

 沖縄返還に合意した1969年の日米首脳会談で、「非核三原則」を掲げていた佐藤首相が、ニクソン大統領と署名した核密約。それは、米国は沖縄を返還する際に米軍基地から核兵器を撤去するが、緊急時には米国が沖縄に核兵器を再び持ち込むことを日本が認めるというものだった。

 合意議事録と呼ばれるその核密約の原本は、佐藤首相の次男で元衆院議員の佐藤信二氏が2009年に明かした。その後、どうなったのか。日本大学特任教授の信夫(しのぶ)隆司氏は話した。

「信二さんが亡くなった後、阿達(あだち)さんが継いだと聞きました」

「阿達さん」とは信二氏の娘の夫で、信二氏の秘書から自民党参院議員になった阿達雅志氏のことだ。2020~21年の菅義偉内閣では経済・外交担当の首相補佐官を務めており、私は時々話を聞いていた。22年10月からは参院外交防衛委員長を務める。

 信夫氏と会った2022年9月の数日後に、たまたま阿達氏にアポイントを入れていた。東京・永田町の参院議員会館を訪ね、国際情勢や日本外交について意見を交わし、「ところで」と義父が明かした合意議事録の原本はいまどうなっているかを尋ねてみた。

「コピーはあるけど、原本の方はわからないんだ」。阿達氏はそう話すと、年季の入った封筒を持ち出した。


 合意議事録のコピーだけでなく、佐藤・ニクソン会談の根幹に関わる様々な文書が入っていた。

 それが、本書の主題となる「若泉文書」だった。

若泉敬氏=吉村信二氏提供

 特に目を引いたのが、「極秘 核を中心とした会談の具体的な進め方」という手書きの3枚紙だった。鉛筆とみられる几帳面な字で、ところどころ赤や青で強調されている。カラーなので原本に見えたが、これも合意議事録と同様、コピーとのことだった。

 佐藤首相とニクソン大統領が会談のさなか、同席者に怪しまれぬよう別室に移り、合意議事録に署名する――。そんな核密約までの運びを前もって、噛んで含めるように佐藤首相に説明しておくためのシナリオだった。