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 ビルの合間を縫って歩く。駅前広場の正面に建つ商業施設は「あまがさきキューズモール」といい、阪神百貨店も入っている。その隣にはホテルもある。そして病院、マンション、オフィスビル。地上を歩いていると、ついついずっと空を見上げてしまう。尼崎駅前はそんな風景の場所だ。

 

 そうしたビルの間を少し抜けていくと、マンションの合間が商店街になっているような一角に出る。林立しているマンションの迫力にうっかりだまされそうになったが、その商店街はどこにでもあるチェーン店ばかりのそれとはちょっと違う。チェーン系のお店はだいたいあまがさきキューズモールに入ってるということで、こちらにはどちらかというと昔ながらの個人店が並んでいるのだ。

 町のイメージがどうであれ、駅前にあるマンション群はどの町であってもだいたいは再開発で生まれたものだ。そして、もとからその地域にあった商店は、再開発ビルの中に吸収されて営業を続ける。個人店であることが多いから、最近では経営者が店を続けるのを断念して、真新しいチェーン店ばかりになってしまうケースも多い。が、少なくともこの尼崎駅前には、そうではなさそうな店が並ぶ商店街が残っていた。

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マンション群を抜けていくと、まったく違う町並みが…

 そして、さらにそうしたマンション群を抜けて北に行くと、クルマ通りの多い道を一本挟んだ向こうには、それまでとはまったく違う町並みが広がっている。そこには比較的背の低い、つまりは低層住宅がひしめく。文化住宅の類いもあれば、低層の長屋のような住宅もある。

 タワマンの迫力に圧倒される、尼崎駅前とは正反対。エリアとしてはどちらも住宅地、ということになるのだろうが、こちらは昔ながらの庶民派住宅地といったところだ。つまり、多くの人がイメージする尼崎の世界感は、ちゃんとJR尼崎駅の近くにも残っているのである。

 

 そうした雰囲気は、さらに駅の周りをぐるぐる歩いても変わらない。駅の東側、線路を潜る道路の向こう側にも似たような住宅地が連なる。細い路地のような道の脇に、小さな住宅が肩を寄せ合い、所々の空き地には新しいマンションが建っていたり、建築中だったり。そうした傾向は南口に行っても同じで、新しいマンションと昔からの住宅地が混在するゾーンが広がるのが、尼崎駅周辺の姿なのだろう。

 

 そんな町の合間合間には、比較的規模の小さな町工場も点在している。尼崎は、大阪と神戸に挟まれたベッドタウンであると同時に、近代以来の工業都市という顔も持つ。そういった要素もちゃんと兼ね備えた尼崎駅。駅の目の前こそ巨大なビル群に覆われているが、むしろあらゆる顔を持つ尼崎らしさというのは、すべて尼崎駅にやってくれば体感できるというわけだ。