工業の町で誰が野菜を作っている?
そんなわけで、春先の尼崎の住宅地の中。コミュニティファームで賑やかなイベントが行われていましたよ、というお話なのだが、本題はここから。このイベントと、コミュニティファームの運営者のひとつが、JR西日本あいウィルという会社だ。名前から分かるとおりJR西日本グループの会社で、いわゆる“特例子会社”、障がい者を中心に雇用している。
「事業開始は2009年で、尼崎に本社を置いています。現在の社員数は約250人。そのうち、7割ほどの社員がなんらかの障がいを持っています。これは特例子会社の中では比較的多い方ではないかと思います。また、障がいを持っている社員でも健常者でも、賃金体系は同じなんです。なので、能力があれば障がいがあろうとなかろうと、同じようにステップアップして管理職になることができます」
こう話してくれたのは、JR西日本あいウィルの梶原隼平さんだ。同社の基幹事業は印刷事業。2019年度には年間17億円ほどの売り上げがあり、その6~7割が印刷事業によるという。具体的には、JR西日本グループの社内で発生する、印刷需要に応じるものがほとんどだ。
たとえば、社員の給与明細や駅窓口に置かれる定期券の申込書の類い、業務用のダイヤグラム、果てはトレーディングカードのようなグッズまでを手がけている。ただ、デジタル化のあおりを受けて印刷物の需要が低下。収益は減少傾向にある。
「やるだけで赤字になるような状況だ」
「そこで、何か新しい基幹事業になりうるものを考えなければならないということで、新規事業のアイデアを社員にヒアリングしました。そこでいちばん多かったのが、農業だったんです」(梶原さん)
しかし、言うは易く行うは難し。農業分野、中でも生産で利益を出すのはなかなか難しい。
「いろいろ農業分野に関わる人たちに話を聞いたのですが、10人中9人は『生産はやめとけ』と言うくらい。そもそも技術習得に時間がかかる上に、販路がないんですよね。新規参入、それも尼崎のような都市近郊での小規模農業ではますます難しい。都市近郊の兼業農家さんの多くは、やるだけで赤字になるような状況だと聞きました」(梶原さん)