「私のアリエルじゃない」「私みたいなプリンセス!」。ディズニーの実写版『リトル・マーメイド』ほど、公開前から賛否がわかれた映画もないかもしれない。
旧作アニメーションの主人公アリエルは白い肌の人魚姫だが、今回のリメイクの演者ハリー・ベイリーは黒人女性。人気キャラクターの人種変更が、激しい賛否を巻き起こしたのだ。一部の旧作ファンに加えて、非白人起用を「ポリコレのゴリ押し」とみなした反リベラル勢はSNSで「#NotMyAriel」と題された反対運動を展開。
一方、黒人アリエルへの熱気も形成されていき、予告編のベイリーを見て「私と似てる」と歓喜する褐色肌の子どもたちのビデオが投稿されていった。
批評家からはさっそく酷評が
実写版『リトル・マーメイド』は、成功するのか、失敗するのか。多くのファンとアンチが注目したが、批評家たちの反応は、また別のものだった。
目立ったのは「主演頼みの作品」という評価。たとえば、批評家のマット・ハドソンは「安全重視のリメイクで秀でた点もリスクテイクもない」と批判しながら主演の歌唱を称賛し、以下のように終わらせている。「ベイリーは主演として輝いているが、映画が彼女の価値に応えられていない」 。
これは予想できた評価だ。ハリー・ベイリーは国民的スターのビヨンセが見いだした新鋭歌手で、今作の起用のきっかけもグラミー賞でのパフォーマンスだった。アリエル役に必要な「聴く者の心を打つ歌声」はお墨つきだったわけだ。
一方、批評家のあいだで、ディズニーリメイク近作の評判はかんばしくない。創造的な工夫なく、ノスタルジー需要で儲ける「怠惰なリメイク」とも呼ばれている。たとえば、2019年版『ライオン・キング』と『アラジン』の映画サイト「ロッテントマト」における批評スコアは50%台と低い。60%台を達成した『リトル・マーメイド』は「最近のリメイクではマシ」と言える。
しかし、批評家と観客は異なる。『ライオン・キング』も『アラジン』も10億ドル超えのメガヒット作で、前者は歴代世界興行収入トップ10入りを果たした。
『リトル・マーメイド』にしても、いざ公開されると出口調査 で2作と同じ「A」評価を達成。上映中、歌唱シーンやエンディングで拍手が起こる劇場の様子を撮影したビデオ も投稿されており、女性客中心に恋愛要素も好評だ。
ビジュアルが「リアルすぎる」と衝撃を呼んだマスコットキャラにしても、コミカルな演技を披露したカニのセバスチャン人気は上々。客足をキープしているため、北米興行は『アラジン』と同程度となる3億5000万ドルが視野に入っている 。