脱法ドラッグを吸引させた酩酊状態の女優をマンションに連れ込み、わいせつ行為を撮影しながら重症を負わせた、AV業界を舞台にした史上最悪の事件「バッキー事件」。刑務所で懲役15年の罪を償い、現在は出所している制作責任者の男性は当時のことをどう振り返るのか。

 ノンフィクションライターの中村淳彦氏による『同人AV女優 貧困女子とアダルト格差』(祥伝社新書)の一部を抜粋し、加害者男性の証言をそのままに近い形で紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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「何を言ったところで誰にも聞いてもらえない」

 彼と会うのは18年ぶりだった。エネルギッシュに流暢にしゃべる姿は何も変わっていない。

「逮捕から出所まで、拘束されていたのは17年間ちょい。前代未聞ですよ。俺自身の自意識で言うと、自分は“悲劇のヒロイン”だと思っていましたよ。報道された事実と、当事者の俺から見る真実というのが違うから。ただ何を言ったところで、こういう立場になってしまうと誰にも聞いてもらえない。

©AFLO

 そもそも最初に肛門破壊の撮影で逮捕されて、その事件は起訴さえされてない。不起訴がどういうことか、みんな分かってない。分かってないどころが、バッキーは女性の肛門を破壊した集団みたいになった。裁判で認められた実害は、全治数週間の打撲と全治不明のPTSD。全治不明のPTSDっていうのは、うちらが逮捕されたあとに警察に連れられて一度病院に行ったときの診断。実際のところはよく分からないわけ」

金銭トラブルの延長で再逮捕に

 2004年6月、マンションに連れ込んだ女優に浣腸器具を挿入して重傷を負わせた事件と再逮捕のときの裁判の話になった。女優の肛門にケガをさせた事件は関係者が証拠不十分で釈放され、再逮捕の事件は警視庁池袋署が出演女優に告訴を促している。

「裁判のときに『全治不明の病気なのに、その後通院していないのでしょうか?』って、こっちの弁護士が突っ込んだ。けど、向こうの返答はお金がかかるのと、保険を使うと家族にバレる恐れがある、って言い分。でも、それが認められてしまったわけ。すごく理不尽な裁判だったと思うし、納得いかないよね」