「東京マラソンに出たら膝をやっちゃってね……」
市民ランナー憧れのレースに出場した名誉を誇示しつつ、負傷をアピールすることで記録への言及を避けようとするお父さんが、この時期あちこちに出没する。膝小僧をさすりながら、周囲の憐れみを期待しているのだが、東京マラソンに罪はない。悪いのは「準備不足」なのだ。
走ると膝に体重の3~4倍の加重がかかる
今年で12回目となった東京マラソン。この大会の成功に触発されて、全国に燎原の火のごとく市民マラソン大会が乱立し、それに合わせてマラソン人口も増加した。
しかし、走り始めたすべての人が健康を手にしているわけでもない。特に大会となるとつい無理をする人も多く、熱中症で倒れる人や、ひどい場合は心筋梗塞や狭心症で救急搬送されるケースもある。中でも多いのが、冒頭で書いた「膝の故障」だ。
人間が走るとき、膝には1歩ごとに体重の約3~4倍の加重がかかるという。健康のために走っているのに、大丈夫なのだろうか。
人工膝関節置換術で国内有数の症例数を持つ埼玉協同病院整形外科副部長の桑沢綾乃医師に訊ねると、こんな答えが返ってきた。
「確かにそこだけを見ると、マラソンは膝によくない競技――に見えてしまいますよね。でも、実際にはしっかりと膝周囲の筋力を維持し、正しい走るフォームを保ち、長年走っていても膝に変形が起きないランナーはたくさんいます」
同医師によると、すでに膝関節に何らかの変形がある人がマラソンを走れば、将来変形が進行し、人工関節が必要になる恐れも高まるが、膝周囲の筋力を鍛え、ストレッチを行った準備された膝であれば問題はないという。
なぜマラソンで膝をケガする人がいる?
ならば、同じマラソンをしているのに、膝をケガする人としない人がいるのはなぜなのか。
「膝を故障するランナーに共通するのは、“上下動の大きい走り方”です」
と語るのは、湘南ベルマーレ・トライアスロンチーム・ヘッドコーチの中島靖弘氏。ホノルルマラソンをはじめ国内外各地の大会で市民ランナーを数多く指導している同氏によると、上下動の大きいフォームだと着地した時に膝が大きく沈み込むようになり、前腿の筋肉に負担がかかって膝の故障を招きやすいという。
沿道で応援しているとわかるが、優勝を争うエリートランナーはもちろん、市民ランナーでもフルマラソンで3時間半を切るようなアスリートの走りは、確かに上下動が小さい。しかし、ゴールタイムが4時間台、5時間台となるにつれて、上下にピョンピョンと飛び跳ねる走り方の人を多く見かけるようになる。
「上下の動きを前に向けた推進力に変えれば、膝への負担も小さくなるし、タイムもよくなる。そもそも上下動の大きな人は猫背になっていることが多い。胸を張って、お腹を前に突き出すくらいの意識で走れば姿勢もよくなり、膝の沈み込みもなくなります」と中島氏。参考にしてほしい。