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 たとえば収益が厳しい部門では、「期末になると、上司が『みんながんばろうな』と奥歯に物が挟まったような物言いを始める。すると『こんな状況だから何とかするか』と、現場も“あうんの呼吸”で動くようになる」――そうやって原価の付替えが行われ、見せかけの数字が作られていった。

性能データの粉飾も横行し、会社は腐敗

 また東芝では性能データの粉飾も横行した。「たとえデータが黒だと示していても、白だと言わない限り納得してもらえないし、昇進できない。優先されるのは上司の『面子』であって、技術の裏付けとなるデータではありません」。上の者が“いい顔”をしたいばかりに、下の者にそのための数字を強要する。その連鎖が下へ下へと向かっていき、とめどなく会社は腐敗していく。

 こうした粉飾が企業カルチャーにまでなってしまった責任は、歴代のトップたちにあった。財界人としての名誉欲にかられる者、前任の社長でもある会長への嫉妬心を燃えたぎらせる者、傍流から上がってきた無難さだけが取り柄の者、こうした社長たちが会社をめちゃくちゃにしていった(それについては大鹿靖明『東芝の悲劇』が詳しい)。

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写真はイメージ ©️AFLO

 その結果、多くの従業員たちは人生を狂わされていく。

「みじめだったと思うよ。絶望して辞めた人も多い。自分のことしか考えない社長がやったことで割を食うのは末端社員。とても報われないね」(OB・談)――『東芝 粉飾の原点』は、歴代社長たちに翻弄される一般従業員たちの姿、そして会社ごと根腐れしていく様が内部告発などによって克明に活写される。本書ほど、「会社とは何か」を物語るノンフィクションはそうそうあるまい。

東芝 粉飾の原点 内部告発が暴いた闇

小笠原 啓

日経BP

2016年7月15日 発売

内部通報に対して「やったヤツは必ず見つけてやる」

 悪事を隠す組織防衛のすさまじさが描かれるのが、藤田知也『郵便局の裏組織』(光文社、2023年)だ。

「どんなことがあっても仲間を売ったらあかん。これが特定局長の鉄則。してないな?」

 経済部記者の著者が入手した録音データには、全国郵便局長会の九州副会長が、配下の局長を怒鳴りつける声が記録されていた。声の主の息子も郵便局長で、彼による局員への暴行、勤務中のゲームセンター通い、社内規律に反する現金の取り扱いが本社のコンプライアンス部門に内部通報されたことから、父でもある副会長は“犯人捜し”を行っていたのだ。

 日本郵便株式会社が「表」なら、局長会は「裏」の組織である。前者は後者を「社外の団体」だと言うが、密接につながっている。本書は、そうした実態や郵便局長たちの局舎の私物化や、自民党の集票マシーンとしての政治活動などを詳らかにするノンフィクションだ。