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前科者の「壁」

 もちろん「司法試験はむずかしい」ということは知っていた。国立大学の法学部を出たからといって簡単に合格できるわけじゃなくて、中には何年も浪人を繰り返すこともあるらしい。

 だが、そんなハードルの高さを気にしていたら何にもできない。むしろハードルが高いほうがチャレンジのしがいがあるというものだ。

「よし、目指すは司法試験だ!」

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 そう思って、いろいろ調べたら――刑務所にいても司法試験の学校のパンフとかは取り寄せられるし、刑務所内の図書室には六法全書は常備されている――、なんと意外な落とし穴があった。いや、意外でもないか(笑)。

若かりし頃の筆者(写真:筆者提供)

 それは「欠格事由」というものだった。

 さっきも書いたように司法試験そのものを受けるのに学歴とか年齢、その他の制限はない。日本の国籍を持っていなくても大丈夫だ。

 しかし、晴れて試験に合格したとしても、そこから弁護士になるのには条件がある。弁護士法第七条にはこう書いてある。ちょっと堅苦しくなるが、許してほしい。

第七条(弁護士の欠格事由) 次に掲げる者は(略)弁護士となる資格を有しない。

 

一 禁錮以上の刑に処せられた者

(略)

四 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者

 俺の場合、この七条の(一)が問題だ。

 つまり「禁錮以上の刑」ということ。

 禁錮というのは、刑務所に入れられ、自由を奪われるが刑務作業はしなくていい刑のこと。一般には禁固刑と書く。実際には禁錮刑を宣告されることはあんまりなくて、たいていは「懲役刑」、つまり刑務所に入れられて、そこで刑務作業を強制される刑が言い渡される。禁錮と懲役のどっちが上か――いや、「上」というのは変だな――というと、もちろん懲役刑のほうが重い。だから「禁錮以上の刑」というと、懲役も含まれる。

 だから、俺のようなムショ帰りはこれに引っかかる。

 ただ、執行猶予になった場合は、その期間を何ごともなく過ごせば、刑の言い渡し自体が消滅するので、弁護士になる資格は得られる。

 また厳密に言えば、一度でも禁錮、懲役に処せられたら、一生アウトと決まったものではない。

 こっちは条文を省略するが、刑法第三十四条には「刑の消滅」という規定がある。

 ざっくり言うと、裁判で刑が確定しても、それから10年間、罰金以上の刑を受けなければ刑を受けたという事実が消滅して、前科による資格制限がなくなるという規定である。

 と言っても、前科そのものは消えない。