18世紀後半、飢饉に苦しむ東北の村で、凛(山田杏奈)と伊兵衛(永瀬正敏)親子は村人から蔑まれ孤立して暮らしている。だがある事件を機に、凛は村で暮らせなくなり一人山奥へ足を踏み入れる。そこには村人に恐れられる山男(森山未來)の姿があった。
柳田國男著『遠野物語』に着想を得た映画『山女』は、壮大な自然と共に生きる人々を描きながら、村社会の閉鎖性や人間の無力さ、残酷さを浮き彫りにする。監督は福永壮志。『リベリアの白い血』はアメリカに渡ったアフリカ移民、『アイヌモシㇼ』は北海道に暮らすアイヌの人々、今作は江戸時代の農村と、題材は変わっても主題は一貫している。マイノリティに光をあて人々のルーツやアイデンティティを追求すること。
「数多くの映画があるなかで自分があえて作るなら少しでも社会的な意味があるものを、と思うんです。もちろんマイノリティを扱うことだけが社会的な意味を持つわけではない。でも少なくとも自分にとってはそれが重要だし、人のルーツやアイデンティティには常に関心を持っています。日本で暮らしていた昔の人達がどういう信仰を持ち、どう世界を見ていたのか、それがどう現在に引き継がれているのかに興味があるんです」
その関心はどう生まれたか。
「僕はニューヨークで映画を学び、長いこと暮らしていました。そこで色んなルーツを持つ人達と交流するうち、自分が日本人であることを自然と意識し始め、日本人って何だろう、もっと言えば人間って何なのかということに興味が向いていった気がします」
オリジナルではなく『遠野物語』を原案に選んだ理由は。
「前作の製作中、アイヌの人達に伝わる伝説や昔話を調べるうち日本の民話に興味を持ち始め、特に『遠野物語』に強く惹かれました。長年伝えられてきた噂話や昔話を通じて当時の民衆の文化や風習、信仰が段々と浮かび上がる。そしてそれらは今の日本人の生き方にも脈々と受け継がれている重要な要素だと思う。貴重な資料であり、社会の片隅で生きる人々を描くうえでぴったりの題材でした」
主人公は「山女」だが他にも様々な伝承が盛り込まれる。
「本全体を通して見えてくる当時の生活や世界観に興味があり、狼や人柱、神隠しなど、そのヒントになるものを汲み取って形にしていきました。いわゆる化け物の話ではなく、それを作り出す人間の話です。そういう存在を信じるほど自然への畏怖を持って生きる人達の姿を描きたかった」
時代劇だが日本人以外のスタッフが多く参加する国際共同製作体制。前2作も同様だ。
「自分の中では日本映画/外国映画という境目は特にないし、その都度描きたいテーマを一番描きやすい形で作っていったら自然とこの製作体制になっていました。それと僕の映画作りがニューヨークでスタートしたことも大きいかもしれない。多様な人達が集まることでより面白いものができるのを身に染みて経験しているし、自分の想像を超えるものを目指しています」
ふくながたけし/1982年生まれ、北海道出身。ニューヨークで映画を学び、初長編『リベリアの白い血』が2015年ベルリン国際映画祭パノラマ部門に正式出品。長編2作目『アイヌモシㇼ』も数々の映画祭に出品され話題を呼んだ。『山女』が長編3作目となる。
INFORMATION
映画『山女』
6月30日公開
https://yamaonna-movie.com/