「緩急の『緩』になれるように」
鈴木選手は今季の自身の意識の変化についてこう話します。
「去年まではバッティングで貢献しないと生き残れないと思っていたけれど、自分は『走れる・守れる』と思えるようになってから『出塁していこう』と考えられるようになりました。今年は改めて『全てにおいて戦力になれるように』と思えるようになりましたね。(ライオンズには)積極的にガンガンいくバッターが多いので、自分が緩急でいえば『緩』になれるように。去年は自分でも“若手”と思って思いっきりいくだけでしたが、ある程度経験してきて、『チームが勝つために』とより強く思うようになりました」
この言葉は、去年の経験が鈴木選手を大きく成長させた表れではないでしょうか。
チームのトップである監督が替わったことも、彼には幸いしたと思います。これは普通の会社でもよくあることでしょうが、トップが替われば会社の方針が変わる。それによって自分が生かされやすい環境になる。鈴木選手にとってはいい巡り合わせだったのでは、と思います。
早いカウントから積極的に振りにいく打者が多いライオンズ打線の中で「緩急の『緩』になれるように」というのは、自分は粘って球数をたくさん投げさせる役割を果たすという意志を感じました。実際、今年の鈴木選手は打席で粘って相手投手に球数を多く投げさせるシーンがよく見られます。組織の中で自分が果たす役割を自覚して実行することは、野球でも会社でも、チームが円滑に運営されるうえで欠かせないことです。
“中年オヤジ”を勇気づけた言葉
去年の経験を糧として、7年目の今シーズン、大きな飛躍を果たそうとしている鈴木選手。
「自分は本当に一段ずつ上がっているタイプだと思います。毎年どこかで絶対打てる時期が来ると自分では思っていますが、そのためにはずっと一軍で粘り続けるというか、しつこくやり続けないといけない。今はそれ待ちですね。自分はこの場所(一軍)を逃したくないし、そのためには打たないといけないけど、出塁率や盗塁もできるようになれば多くチャンスをもらえると思います。息の長い選手になれるように全部をやっていかないといけないですね」
「この場所を逃したくない」「息の長い選手になれるように」という言葉に、鈴木選手の強い決意や執念を感じました。
彼を見ていると、自分に重なる部分を感じます。私もアナウンサーの仕事が好きですし、できるだけ現役でいたい。そのためには息が長く、何でもできるオールラウンドプレーヤーでいたいと思っています。
鈴木選手の決意を聞いて、私は入社8年目の2007年に体験した大きな節目を思い出しました。文化放送のスポーツアナウンサーが全員スポーツ部に異動し、アナウンサー兼ディレクターという「アナデューサー」体制となったのです。
ディレクター業務となると、番組を作るための業務が加わります。選手に取材した音源を編集して番組の素材として落とし込む、番組の構成表(Qシート)を作る、スタジオの副調整室で喋り手にキューを出す、ゲストブッキングをする、企画を考える、中継時の宿泊先ホテルの手配など……今まで喋りしかしてこなかった自分は慣れないディレクター業務に戸惑い、体調を崩すこともありました。
それでも何とか乗り越えて現在に至っています。当時の経験は後々、北京・東京と2度のオリンピック中継の現場ディレクター業務で大いに役立ちました。あの時経験した苦労は無駄ではなかったと思っています。
今季オールスター休みまで一度もファームに行くことがなかった鈴木選手ですが、後半戦前日の7月21日、体調不良で登録抹消となりました。手応えのあるシーズンをすごしていただけに、本人が誰より残念に感じているはずです。
だからこそ、思い出される言葉があります。今年の南郷春季キャンプで鈴木選手に取材したとき、印象的な内容を話していました。
「うまくいかなかった時はたくさんあったけど、雑草じゃないけれど何度でも復活してこられたのはある意味自信になっています。今年も、ダメでもめげない気持ちをずっと強く持って、1年間戦えるように意識して頑張りたいと思っています」
ダメでもめげない気持ち、とっても大事です! 47歳中年オヤジ、大いに勇気づけられました。
7、8年目というと社会の中で若手から中堅になっていく、人生の中で重要な時期だと思います。プロ野球選手とアナウンサーを重ね合わせるのは筋違いも甚だしいと自覚しながら、鈴木選手の今シーズンの飛躍、そして復活をこの目でしっかり見て、声で伝えていこうと思っています。
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