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LINEグループでやりとりも…65歳の原辰徳監督に学ぶ、親子以上に年の離れた選手との接し方

文春野球コラム ペナントレース2023

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言いづらさを乗り越える勇気

 伸び盛りの選手を起用したり、期待をかけ成長を促したりする。それは監督業の中でもポジティブな仕事として、注目されやすい部分です。

 その一方であまり注目されませんが、選手に起用しないことを告げ、時には2軍降格を告げ、最終的には戦力外という断を下すことも監督の大切な仕事のはずです。

 もちろん、すべての選手へのネガティブな通告を原監督が直接しているわけではないと思います。しかし、主要な選手や敬意を払うべきベテランに対しては、原監督は自ら声をかけているのです。

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 7月25日現在、2軍で調整中となっている丸佳浩選手には「状態がよくなったら、直接連絡してきてくれ」と声をかけています。さらに、原監督はこう続けています。

「いると使いたくなる選手というのがあって。彼の役割って低い位置じゃないから。秋広とかとは違う。坂本、丸、中田、岡本も含めて、このへんは格の違う選手」

 この発言を聞けば、ベテラン選手は「チームのために」と一層奮起するでしょうし、秋広優人選手などの若手選手も自分もそのクラスまで上り詰めようと思うのではないでしょうか。

 贔屓を嫌い平等を愛する風潮が強い現代社会で、ここまでハッキリと特別扱いを明言するのはなかなか勇気がいると思います。

 そして、主力選手のプライドを尊重する一方で、躊躇なくバントのサインを出すことについては「主力選手にそのサインを出すことが重要、勝つために何をしてほしいかということ」と語っています。

 さらに原監督は「采配ミスとの批判を恐れませんか?」という問いに、笑いながら「全然怖くない、そんなの。目的は相手チームを1点上回ること」と答えています。

「批判を恐れるな」というフレーズ。

 頭ではわかっていても、実践する勇気はなかなか持てません。

 正直にいうと僕自身、コラムを書くたびに批判を恐れまくっています(笑)。そして書き上がった原稿を眺めては、「この言い回しは批判されそうだから柔らかくしよう」と試行錯誤し、手を加え続けた挙句にまったく面白くなくなり、一から書き直すことも珍しくありません。

批判はお友達、スターの生き方

 思えば原監督の野球人生は、常に批判を浴びまくっていました。

 長嶋茂雄さん、王貞治さんの次の四番打者として期待と注目の中、ジャイアンツに入団。1000試合以上も四番という重責あるポジションに君臨したにも関わらず、偉大すぎる先輩と比較され批判され、晩年は怪我と戦いながら数字を落として批判され。同ポジションの有力な選手を獲得するチームで次第にポジションを失い、若手選手を代打に出される厳しい経験もした上で引退。

 そこで飛び出たのが冒頭の「私の夢には続きがあります」という名台詞です。精魂尽き果てての引退となってもおかしくない激しい選手生活の最後に、原監督の目と言葉には底知れない力が宿っていました。

 批判にさらされながらもファンに向けて発信し続けたことが言葉に宿り、自身が受けたつらい晩年の思い出がベテランや、いろいろな選手とのコミュ力に宿り、四番を1000試合以上務めた経験が勝利へのあくなき執念に宿る。

 こうして現役最強、球史でも屈指の名将・原辰徳監督が生まれたのだと僕は思います。

「夢の続き」がどこに向かうのか。

 シーズン後半戦のジャイアンツも、原監督が率いている限り必ず熱い戦いを見せてくれる。僕は心の底から信じています。

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