ところで、仙桃園のオーナーに「なんで平井なんですか?」と聞いてみたところ「平井は何もないのがいい!」と言うんです。「小岩とか錦糸町とかは危なくて、中国人の親も、子供がそこに住むのは心配しちゃう。でも平井は何もない。だから安心!」と言うんです。なるほど確かに錦糸町、亀戸、新小岩、小岩に比べて、平井は何もないゆえの極上の安心があるわけです。
加えて平井には、年老いた中国残留日本人孤児向けにも提供している中国語のデイサービス「一笑苑」があり、来日後に年老いた家族が一笑苑を利用するというケースもあります。平井には、日本語教育も行う専門学校「東京マスダ学院」の関係で、90年代から台湾人、中国人、ベトナム人と国籍トレンドは変われど学生が来ているそうです。そうはいっても、新小岩の街を歩く外国人に比べて、平井の外国人のほうが静かなのは個人的にも感じるところ。
平井の異国飯屋の共通点
外国人が大阪に住むと大阪弁を話してノリも大阪っぽくなり、名古屋で店を構えると周辺の店舗同様にパトランプを回すように、外国人とて周辺を模範として生活をするわけです。平井は江戸川区の荒川より都心側の飛び地で、今でこそ地味すぎる街だけど昔は商業と行政の中心で「小岩駅より平井駅のほうが(1か月)早くできた」という江戸川区の古都としてのプライドもある。
平井駅前の本屋「平井の本棚」の津守氏いわく「平井民は平井地区だけで引っ越しを繰り返すのが平井あるある」なんだそう。「平井にひっそりプライドを持つ地元民ゆえに、変な人にテナントを貸さないのかもしれない」という声もあり、平井民たる人情と品があると認められた人だけに、激安下町プライスでテナントを提供しているのです。
平井のクセのある異国飯屋は、ゆったり空間で安くてうまくて、日本語が話せてホスピタリティある中年外国人がやりくりしているという点で共通しています。それはたまたまというよりも、江戸川区の中心からはずれていったプライドのある平井の住人が作り出した歴史と伝統が影響しているのかもしれません。
写真=山谷剛史
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