県庁の職員が教えてくれたのは、福井県庁前で定期的に原発反対のデモ行動をしている団体。中学時代に不登校だった時期があるという今泉は、かつては県庁に電話をすることさえためらっていた。ところが原発の勉強を始めたことで、今泉は知らない人に会うのが楽しみになっていた。
「私はある意味で“生まれ変わる”ことが出来たかもしれません」
自らを奮い立たせて県庁に連絡し、未知の人に会って話を聞く。そんな小さな経験の積み重ねが、今泉に今までに経験したことのない自信を与えてくれた。“知りたい”という勇気をもって、眼の前の扉を開く。そこには、まったく予想もしていなかった世界が広がっていた。
「私個人はまだ、原発に対して賛成とも反対とも言い切れません」
県庁職員に紹介された原発反対派の人々にあって、今泉は「信念のようなものを感じた」という。福島第一原発事故や海外の原発事故で被害にあった子供たちの写真は、言葉を失うほどのインパクトがあった。がん検査の話には身が固くなる思いがした。
「事故が起きてからでは取り返しがつかない」
そう語る原発反対派の意見には共感しつつも、単純に原発をなくせばいいとも今泉には思えなかったという。エネルギーは十分に提供できるのか。病院などのインフラの電力は賄えるのか。原発をやめたとして、代替は? 原発を辞めたとしても、使用済み核燃料や廃炉の問題は未解決だ。
今泉が完全に納得できなかったのは、原発推進派に対しても同じだった。使用済み核燃料の一時預かりをしている青森県六ケ所村のプールには限界がある。そもそも最終処分の場所の確保すらできていない。
「私個人はまだ、原発に対して賛成とも反対とも言い切れません。ただ、電気を使わないという選択はありえないと思う。あえて言えばそういう立場です」