3月13日からの3日間、東京・駒場にある東京大学駒場キャンパスでは「日本原子力学会」の春の年会が開催されていた。「原子力発電部会」「核融合工学部会」「バックエンド部会」など各部会での発表や議論の場が持たれた。原子力に係る研究者や官僚、企業などが一堂に会する場でもあった。
今年の年会で目を引いたのが福井県にある私立・福井南高校の生徒らによる発表だった。そもそも、原子力の専門家らが集うこの場で高校生が発表の場を持つのも初めてでは無いにしろ、異例のことでもあった。
10代の少女が原子力発電所に向かい合うことになったきっかけ
13日の福井南高校の生徒らの発表「『福井県 高校生の原子力に関する意識調査2022』から見えてくるもの」に先だち、「日本原子力学会」の「環境・社会部会」は高校生らの功績を讃え「奨励賞」を授与していた。
この日、福井南高校の教員であり、生徒たちと“社会”とを結び続けている浅井佑記範に引率されて2年生の森夕乃、卒業式を終えたばかりの今泉友里が駒場キャンパスにやってきていた。
今泉は日本で最多の原子力発電所を抱える“原発県”である福井に生まれながら、原発を意識したことはなかった。電力、エネルギー、原子力――スマホの向こう側にある問題を考えたことがないのは10代の少女であれば当然だろうか。だが、今泉はある映画をきっかけとして原子力発電所という存在に向かい合うことになる。
映画でも取り上げられていた『地層処分』に関心を持つ
転機が訪れたのは2020年11月、今泉が1年生の時だった。当時、写真部に所属していた今泉は、顧問の浅井に連れられて鯖江市に行った。東京の高校生たちが制作したドキュメンタリー映画『日本一大きいやかんの話』を観るためだった。
高校生の目線から考える原発という意味では出色の映画だった。制作した高校生らは「原発の賛成派と反対派との橋渡しをしたい。一人でも多くの人にこの問題について知ってもらいたい、考えてもらいたい、話し合うベースを作りたい」という目標を掲げていた。彼らは原子力科学者、東京電力、また原子力に積極的なフランス政府の関係者などへのインタビューを重ねていく。自問自答しながら、証言を積み上げ、原子力問題とはなにか、本質的な問題はどこにあるのかを問う姿勢は国内外から称賛され、高く評価された映画だった。
映画を観終わった今泉が職員室に浅井を訪ねたのはその翌週のことだった。