母と娘との会話に新しく加わった「原発」の話題
わかりやすく伝えたい、知らない子たちが興味を持てるような言い方はないか――模索し続けていた今泉にとって、もっとも勉強になり、参考になったのが母との会話だった。
高校に通うようになった我が子が原発に興味を持ち、積極的に社会に関わろうとしている姿が、今泉の母はただ嬉しかった。自分も福井で生まれ、福井で育ったが、原発はすでにあるもので、取り立てて興味を惹かれるものではなかった。自分にとっては遠い存在だった原発に娘が正面から取り組んでいる。それだけでも母は嬉しかった。
母と娘との会話に新しい話題が加わった。原発である。同じ学校の仲間に、自分が教師役になって原発の授業をすると娘が言う。母は、原発の仕組みはこうなってる、原発からは“ゴミ”が出てその処理をしなくてはいけない、そしてそれを“地層処分”というんだと説明受ける。
その度に母は娘に言う。「そこはどうなってるの?」「そこがよくわからない」「ちょっと難しいかな、おかあさんには」……。母のこんな言葉に、娘は立ち止まり、悩み、そして調べては、再び母に問う。「これならばどう?」
こんな会話が今泉の家で繰り返された。母と子が同じ風景を見ている。同じ風景を共有している。母はこれだけでも嬉しかった。中学時代、背中を丸めていた娘の背中が伸びていった。娘の視線が外に向かっていった。16歳にして今泉は今までとはまったく違う人生を歩き始めていた。まったく違う風景を自分の手で見つけ出そうとしていた。
“高校”とは別の世界へ踏み出したいと思うように
今泉が“教壇”に立ってからおよそ2年。3年生になっていた今泉に当時のことを聞いた。
「やはり難しいっていう声がありました。私自身が、今でも原発は仕組みや語句を理解するのは大変です。でも……」
こう区切った今泉は言葉を続けた。
「でも……私の発表を聞いてくれた中から『わたしもやりたい』って言ってくれる子が何人かでてきてくれて……」
今泉は仲間を得た。そして、仲間とともに今までとは違う世界に手を触れるようになっていた。高校生になった時、今泉はこう思っていた。高校生の生活は、高校の中ですべて完結してしまうのだろう、と。
ところが、原発に向かい合うようになった今、自分の心の中を覗いてみると、心は違う風景を欲していた。“幌延”に行ってみたい。“原子力発電所”を自分の目で観たい。“高校”とは別の風景、その外の世界へと踏み出したいと思うようになっていた。
そして、今泉がその一歩を踏み出すきっかけがやって来る。それは恐竜だった。今や福井県の顔ともなった“恐竜”だった。JR福井駅西口の正面にある恐竜の巨大モニュメントが今泉に向けて世界を用意してくれていた。
(#2つづく。#2は近日公開)