こう問う高校生にその処分の方法はある、としてその保管方法について原子力の専門家は白板を使い、図のようなものを示しながら「ガラスによる固体化」、それを鉄製の容器で覆い、さらに粘土で覆った容器に収め地中深くの岩盤に埋め込む、つまり「地層処分」を説明していく。それを聞いた高校生らは、現在、「地層処分」の実験が行われている北海道・幌延町にある「幌延深地層研究センター」を訪ね、実際に実験が行われている地中350メートルまで潜り、実験現場を体験するのだった。
生徒だけでなく教員も巻き込んだ「教科横断型授業」
現在、使用済み核燃料の処理方法はあるものの、保管場所が無いのが日本の現状。日本の原発からでる「使用済み核燃料」は青森県六ケ所村にある「六ケ所再処理工場」内にある貯蔵プールに保管されている。貯蔵容量およそ2万4千トンのうち、現在貯蔵されている量はその75%にあたる約1万8千トンである。しかし、最終処分となると「地層処分」を受け入れる自治体の目処はまったく立っていない。それがゆえに、日本の原発は“トイレ”のない家に例えられるのである。
こうした原発稼働以来、日本が抱え続けている「使用済み核燃料」の保管、処理の問題について今泉は強い興味を引かれ、その結果、生徒だけでなく教員も巻き込み、最終的には校長先生も参加した「教科横断型」の授業が出来上がったのだった。「教科横断型」授業でここまで大々的に、しかも原発を正面から扱うことも同校始まって以来のことだった。
多くの生徒、教員らを前にして“教壇”に立つのは1年生、今泉だった。
原子力問題が抱える難しさが、人々たちから原子力を遠ざけている
教壇に立つ前、今泉は徹底して原子力について学んだ。しかし、学ぼうとした途端にその語句の難解さに立ち止まらされる。何度も立ち止まっては頭を抱えた。それは当然だろう。難解さはそれだけで原発問題を生活圏から排除させてしまう。多くの日本人が原発について感情的な感覚しか持たず、初歩的な知識さえも持とうとしないのは、その“難解さ”がためだ。
今泉もその“難解”という蟻地獄に嵌りそうになる。たとえ高校生の立場である自分が教壇に立って教えたとしても、聞く側の高校生たちが“難しい”“難解だ”と思った瞬間に気持ちが原発から離れてしまうだろうと今泉は直感的に思っていた。
「原子力発電って何なのかというそもそもの部分から始めたんですが、それが本当に難しくて……。改めて原子力問題が抱える難しさそのものが、私たち高校生や一般の人たちから原子力を遠ざけてしまっているということがはっきりと分かりました」