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1000年級の豪雨 逃げるタイミングは…

 あれから5年が経過した。「もう、あんなに浸水することはないと思っていたのに……」。功一さんの妻の茜さん(45)がうなるように言う。だが、市役所が配布した新しいハザードマップには、驚くべき内容が書かれていた。1000年に1度の豪雨に見舞われた場合、市街地は全て浸かるだけでなく、浸水深は10m以上になるとされていたのだ。

 実は、佐藤家の皆さんが新しいハザードマップを見たのは、私が取材に訪れた時が初めてだった。5月の市広報と一緒に配られたはずが、入っていなかったのだという。

 功一さん、茜さん、一郎さん、啓子さんが次々に地図をのぞき込んでは、「うーん」と渋い顔をした。

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 地図とにらめっこをしていた功一さんは「この想定はあり得ると思う」と言う。「だって、西日本豪雨の時には、被災範囲や浸水の深さが、ハザードマップとぴったり当っていたんだもの」。

ここまで浸水したというブルーライン

 従来のハザードマップは、高梁川は150年に1度、小田川は100年に1度の大雨が降った時にどうなるかでシミュレーションされていた。

 だが、新しい浸水深の想定は実際の被害の2倍になる。10m以上の浸水となると、逃げ場はあるのか。

一列に並んだ黒い土嚢の向こうを高梁川が流れる。ここに新たな小田川の河口(手前)が設けられて、合流点になる

「うちの3階でも無理ですね。3階の屋根に上がってもダメ。早めに逃げるしかない」と功一さんが腕を組む。

「とりあえず家の上へあがればいいかと考えがちだったけど、最初から逃げるしかないよ」と母の啓子さん。

「でも、どのタイミングで逃げるかが難しくなりますね。その時の雨が1000年級の豪雨だと、どのようにして判断するのか。タイミングが難しい」。妻の茜さんが指摘する。

子供の足で1.5km先の体育館に避難できるのか

「うちは裏の高台にあるお寺さんに逃げることにしているんですよ。もとはうちと同じような低地にあったんだけど、明治時代の洪水で被災して移転したんです」と啓子さんが説明した。

 この寺の場所を新しいハザードマップで調べると、ギリギリで浸水想定範囲から外れているようだ。

 とりあえず、寺まで行けば助かるかもしれない。ただ、寺に行き着くまでは細くて急な坂になっている。

 そこで功一さんが疑問点を口にした。「小田川では48時間に888mmの雨が降ったとして計算されているけど、そんな雨がどんなふうなのか、経験したこともないし、坂道が川になって歩けないんじゃないの」。

 大人でさえ恐怖を感じるのに、子供はなおさらだろう。茜さんが「箭田小学校では、浸水が始まった時に逃げる訓練を、春の遠足として行っています。まず、まきび公園に行って、それでも足りなければ、真備総合公園へ行くのです。年に1度は親への引き渡し訓練もしています」と話す。