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 市はL1のレベルまでの水害だった場合、この公園を避難場所として使いたい考えだが、地元の住民の中には「今、まさに河川氾濫が起きそうな時に、川へ向かって逃げる人がいるだろうか。しかも、周囲で浸水が始まると、公園は孤立して取り残されてしまう。そうなったら、もしL2クラスの豪雨に発展しても、公園からは逃げられない。そして10mを超える洪水に呑まれて、水底になってしまう」と話す人もいる。

 一方、国は高梁川からのバックウオーター現象が起きないよう、小田川の河道改修工事を行っている。小田川が高梁川に合流する地点を4.6km下流に移すのだ。そうすることによって、合流点の標高が約5m下がる。

小田川合流点の付け替え工事が進む

 バックウオーターは、本流の水位まで、支流の水位が上がる現象だ。合流点の標高を下げれば、支流の水位上昇も低くなる。

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 ところが、L2想定の雨量だと、こうした工事による効果はあまりないのだという。

一番不安になっているのは高齢者

 茜さんは「小田川の水位を下げるための工事だったのにね」と残念がる。功一さんは「工事が完成するまでは水災保険に入っておこうと考えていたのに、終わっても安心できないということか」と話す。

 ところで、L2想定が人の心に与える影響はないのだろうか。

「もう一度水害に遭ったら、真備には住まない」と言う人は多い。なのに、新しいハザードマップが訴えているのは、次なる水害はもっと酷いかもしれないというメッセージだ。

「一番不安になっているのは高齢者だと思います」と功一さんが語る。

 5年前に被災した時、90歳になる功一さんの祖母は健在だった。だが、あまりの惨状に意気消沈し、ボートで逃げる時には「置いて行ってくれ」と言った。被災から9日後、急激に体が弱って亡くなった。倉敷市では西日本豪雨による初の災害関連死と認定された。

 今年80歳になる一郎さんは「そんな洪水が来たら、ワシはこの家と共に逝く」と話す。

 目が潤んでいた。諦めが先に立つのだろうか。

傷が癒えきっていない人々に降りかかる新たな難題

 この5年間、真備町の人々は極めて厳しい状況に置かれてきた。

 家を失うなどして流出した人口は、1割減ったまま戻らない。被災家屋は公費解体されて空き地が目立つ。

 家の再建に二重ローンを抱えた若者もいる。

 そもそも、51人もの救えなかった命があった。

真備支所前に置かれた吉備真備像と豪雨災害の碑

 功一さんは「友達のお父さんもそのうちの1人です。普段から高齢者を助けなければと行動してきた人で、あの日も何人も助けました。ところが最後は自分が帰って来られなかった」と肩を落とす。

 記憶が蘇るので、今もまだ「雨が降ると怖くなる」と話す人もいる。

 そうした傷が癒えきっていない人々に降りかかる「10m以上の浸水想定」という新たな難題。

 だが、壮絶な経験をし、辛さを抱えてきた人々だからこそ、挑戦できることもある。

 その一つが、皆で生き抜いていくために知恵を絞ることだろう。

 真備町の「発災から5年」は新たなスタートなのかもしれない。