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「7年間ずっと満席のまま閉店」伝説のパクチー専門店主が、千葉の田舎に出した「パクチー銀行」の途方もない夢

source : 提携メディア

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パクチー銀行は全国に広まっていて、約30の「支店」がある。そこで育ったパクチーの種を集めてさらに配るという活動を通して、佐谷さんの蒔いた種はあちこちで芽吹いているのだ。

前述したように、佐谷さんは元信用金庫の物件を借り上げ、2021年1月1日、「パクチー銀行」をオープン。月に数回、各地でパクチーハウスのポップアップなどを行い、週末を中心に鋸南町のキッチンに立っている。店内には貸しギャラリーもあり、アーティストの作品展示も行う。

週末は近くの鋸山に登る観光客が保田駅を利用するため、お客さんも増える。ゴールデンウイークには3日連続で70名前後のお客さんがきて、大忙しだったそうだ。

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再び「あり得ない」を覆す

パクチー銀行は、パクチーハウスの「交流する飲食店」というコンセプトを引き継ぎ、地元の人とお客さんをつないでいる。たまたま来店したある若者は、次の電車で帰るつもりが佐谷さんに誘われて交流会に参加し、コワーキングの利用者であるモンゴル人の経営者と打ち解けて、その人の家に3泊した。その10日後、その経営者が商品の買い付けでモンゴルを訪ねる時には同行したそうだ。

佐谷さんは今、こういった交流を促すだけでなく、これまでにない野望に燃えている。

「ここを圧倒的に面白い町にしたいんですよ。この町にはローカルチェーン以外のチェーン店がない。それってチャンスだと思うんだよね。便利さを売りにせず、ローカルの人たちが自分たちの手を動かす感じで町を作っていく。それを見てなにか普通じゃないことに反応する人たちが集まってくれば、町が変化し始めると思うんですよ」

なぜ、縁もゆかりもなかった鋸南町にそこまで肩入れするのだろうか?

「東京や都市部と違って、ここには遊びができる余白がいっぱいあるんですよ。鋸南町に通い始めてからそれを知って、なんだこれは、最高だなと。それに、僕が住む世田谷だと94万人のうちのひとりに過ぎないけど、鋸南町なら7400人のうちのひとりで、インパクトを出しやすいでしょ。通っているうちに鋸南町の人の優しさに触れ、愛着も湧いてきましたし」