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「Winny事件」さえなければ今の日本は変わっていた 42歳で急逝した天才プログラマーの7年半を奪った「著作権法」という闇

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genre : ニュース, テクノロジー, 社会

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裁判では、第一審の京都地裁は幇助罪の成立を認める判決を下した(2006年)が、大阪高裁は逆転無罪(2009年)とし、2011年に最高裁もこれを支持した。

最高裁「性急に過ぎたとの感を否めない」

最高裁は判決で法執行機関の性急な捜査、起訴を次のように戒めた。

《権利者等からの被告人への警告、社会一般のファイル共有ソフト提供者に対する表立った警鐘もない段階で、法執行機関が捜査に着手し、告訴を得て強制捜査に臨み、著作権侵害をまん延させる目的での提供という前提での起訴に当たったことは、(中略)性急に過ぎたとの感を否めない。》

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逮捕から7年半もの月日を経てようやく金子氏の無罪が確定したわけだが、この事件が日本のIT技術のイノベーションに与えた悪影響はあまりにも大きかった。

ソフトウエアが第三者に悪用されると、その開発者が罪を負わなければならない恐れが出てきたために開発者の間に不安が広がり、著作権のグレーゾーンに触れる技術開発をしなくなってしまったのだ。

また研究機関においても、P2P技術に関連する研究に予算がつかなくなってしまっていたという。

「10年に一度の傑作」という技術だった

Winnyで使われている技術は、ビットコインやNFT(Non-Fungible Token:代替不可能なトークン)などに使用され、最近脚光を浴びているブロックチェーン技術の先駆けとも言われている。

「日本のインターネットの父」と呼ばれる村井純・慶應義塾大学教授は、Winnyを「ソフトとしては10年に一度の傑作」と評価している。しかし、裁判が行われている間、金子氏はWinnyの改良を行うことも、新たなP2P関連の技術開発もできずにいた。

そうしている間に、国外ではP2P関連の新たな技術が続々と現れていた。同じP2P技術を利用した無料インターネット通話「Skype(スカイプ)」は世界中で使われ、これを開発した北欧の2人の技術者に巨万の富をもたらした。今の日本人の生活になくてはならないコミュニケーションアプリ「LINE」も、同じくP2P技術が使われている。