「霊夢です」「魔理沙だぜ」
こんなかけあいで始まる動画をYouTubeやニコニコ動画で見たことがあるだろうか。これは「ゆっくり動画」と呼ばれる人気の動画ジャンルで、その中の1ジャンル「ゆっくり茶番劇」という言葉を商標登録したYouTuberの柚葉氏が炎上している。
「ゆっくり茶番劇」はシューティングゲーム「東方Project」に登場する 霧雨魔理沙と博麗霊夢という2人の女性キャラが、音声読み上げソフトで会話劇を繰り広げるもの。ニコニコ動画には1000以上の動画が登録されている。ネット掲示板で有名になった「ゆっくりしていってね!!!」というセリフにちなんで「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」と呼ばれるようになった。
今回「ゆっくり茶番劇」の商標登録が炎上したのは、登録したのが「東方Project」を制作した同人サークル「上海アリス幻樂団」ではなく、原作と特に関わりのないYouTuberの柚葉氏だったこと、そして今後は利用者に10万円の利用料を請求すると発表したことが発端だった。
「日本の二次創作文化そのものに悪影響が…」
「もし柚葉氏の商標権がこのまま認められてしまったら、日本の二次創作文化そのものに悪影響が及ぶ可能性があります。たとえば集英社や任天堂のような会社が、『二次創作を許したら周辺の商標権を登録されてしまうのではないか』とリスクを感じて二次創作を禁止したら……。せっかく二次創作にまつわるガイドラインなどの整備も進んできたところなのに、その流れが止まってしまえば損失は計り知れません」
そう解説するのは、著作権や商標などの知的財産に詳しい弁護士の河野冬樹氏。しかし「このまま認められてしまったら」と語る通り、河野氏は騒動の今後について実は楽観的な見通しを持っているという。
「『ゆっくり茶番劇』という言葉を使った動画はすでに多くの人によって作成されているので、『ドワンゴ』や『上海アリス幻樂団』のZUNさんのようなしかるべき企業や個人が無効審判を起こせば、商標登録が取り消される可能性は非常に高いと思います。他人の有名な商標と類似していること、すでに多くの人が使用していたこと、その名称があくまで動画の1ジャンルの名称でしかないことなどが証明されれば、商標権は認められないんです」
それでは特許庁は、そんな正当性の低い商標登録をなぜ受理してしまったのだろうか。