このデビッドソン発言は米国を発信源とする「2027年台湾有事説」が世界に広がっていく号砲となった。実際、デビッドソン発言以降の台湾をめぐる動きはめまぐるしい。
2022年8月、退任を控えたペロシ下院議長(当時)がホワイトハウスの慎重論を振り切って台湾を訪問し、台湾防衛への米国のコミットメントを示した。この訪台に反発した中国は台湾侵攻作戦を想定したかのような軍事演習を実施して事態は一気に緊張した。
ペロシ下院議長は大統領継承順位3位の要人で、CIAをはじめとする米国の情報機関や軍からの機密ブリーフィングを受ける立場にある。つまり米軍事コミュニティ、情報コミュニティの分析や危機感に接していたと考えるべき立場にあった。
共有された米情報機関や国防コミュニティの強い危機感が、あえて台湾訪問に踏み切ることになった重大要因の一つだったのではないか、と筆者はみている。
東アジアから見て地球の反対側に位置する欧州の動きも活発化している。ウクライナ紛争への対応に追われる欧州だが、米国の危機感が伝わったのか、イギリス、フランス、ドイツが相次いで海軍艦船を台湾近海に派遣してプレゼンスを示している。イギリスに至っては空母クイーン・エリザベスの拠点を日本に設定して恒常的プレゼンスを東アジアに置くことすら一時、検討したほどだ。
NATOは2024年をめどに東京にアジア発の連絡事務所の設置を目指しているほか、EUでも去年12月の外相会合において台湾有事リスクへの備えが議論されたと報じられている。
日本も例外ではない。「台湾有事は日本有事」とする声が出る中、防衛費は戦後で初めて大幅増額される歴史的な政策転換を迎えた。かつて「対GNP比1%枠」が議論されてきたことを考えると、驚くべき急展開ともいえる。
台湾有事リスクをめぐる動きが目まぐるしく展開されるようになってきたが、果たして米国政府は本当に2027年あるいはそれ以降に台湾有事の発生リスクが高まると見ているのだろうか。デビッドソン発言の危機感はその後の米政府の動きにも反映されているのか?
本稿ではデビッドソン発言をはじめとする米政府関係者の発言や米軍の装備調達の動き、そして日本政府の動きを分析することで、2027年(あるいはそれ以降)台湾有事のリスクを米国がどれほど真剣に捉えているのか、迫ってみたい。