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いまこそ「台湾有事2027年説」を検証する 米軍が抱く危機感の核心とは?

いまこそ「台湾有事2027年説」を検証する 米軍が抱く危機感の核心とは?

2023/07/14

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ニュース, 社会, 政治, 国際, 中国

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デビッドソン発言の波紋

 まず発信源となったデビッドソン発言から分析してみよう。

 この発言は軍の最高幹部クラスが議会に呼ばれて議員に対して自己の所掌の説明をする議会証言で出たものだ。将軍、提督クラスともなれば軍人というより高級官僚であり、議員から揚げ足を取られたり、公約につながるような表現はできるだけ避ける安全運転に徹するのが通常だ。

 ましてや「今後6年間」などと、具体的な年限を区切って説明することは、重大な公約として履行責任、説明責任が発生しかねないだけに、安全運転を旨とする高級官僚としての習性からは異例の踏み込みぶりだ。通常、データや数字は受け手に強い印象を残したい時に用いられることを考えれば、「6年後」という数字をよほど強く訴えたかったのだろう。

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ペロシ米国下院議長の訪台後、中国軍が台湾沖で大規模な軍事演習を実施 ©AFP=時事

 発言直後、デビッドソン司令官は退役していて、引退にあたって最後に言いたいことを言う「最後っ屁」の発言とも捉えられる。発言の問題意識は組織に継承されることはないが、最後に言いたいことだけ言わせてもらう、というわけだ。その種の発言はおのずと政治的影響力は持たず、忘れ去られていくのが常だが、そうはならなかった。後任のアクイリノ・インド太平洋軍司令官が「この問題は多くの人が考えているよりもずっと切迫したものだ」と、デビッドソン発言を追認したからだ。

 米軍の地域別の統合軍部隊であるインド太平洋軍の管轄範囲は日本、台湾、中国、インド、オーストラリア、東南アジアなどを収める広大なものだ。そのインド太平洋軍のトップの現職と前任がそれぞれ予算権を握る議員たちを前に中国の脅威を訴えることは、関連予算を獲得しやすくする政治的意図があるであろうことは容易に想像できる。「ちょっと大げさに言って議員を驚かせて予算をとってやろう」というわけである。実際、議会での証言ではその種のポジショントークが展開されることが多い。

 だが、米軍制服組トップ、ミリー統合参謀本部議長(彼らの上司にあたる)の発言を見ると、ポジショントーク説は説得力を失う。デビッドソン発言の8か月後、すべての米軍制服組を統べる立場にあるミリー議長は「近い将来、台湾有事が起こるとは思わない」と発言している。一見、否定論にも思えるが、続けて「私の言う『近い将来』とは6か月、12か月、24か月を意味するが、その期間に台湾有事があるとは考えていない」と述べている。

 ややトリッキーな発言である。1年や2年の範囲では起こらないと思うが、2年後以降(2024年以降)については、台湾有事が起こらないとは断言できない、と言っているようにも聞こえる。ハッキリしていることは、ここでミリー議長が否定しているのは2年以内の発生であり、それ以降のリスクについては評価をしていない。

前テレビ朝日ワシントン支局長の布施哲氏による「検証『2027年台湾有事』」全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

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