第30回松本清張賞受賞作『ノウイットオール あなただけが知っている』は、選考会で「これは選考委員への挑戦状だ」とされ、激しい議論の末、選ばれた問題作だ。

 著者の森バジルによると、この小説の第2章ラストシーンの着想は、ある人気お笑いユニットのネタから得られた、という。張本人である、Yes! アキトを直撃した。

©文藝春秋(撮影:釜谷洋史)

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「森バジルさんという作家さんが、そうおっしゃっているんですか? だから、読ませていただきましたよ。〈イチウケ!〉というM-1優勝を目指す、高校生の男女の話のラストシーンが、僕らのトリオ『怪奇!YesどんぐりRPG』の単独ライブをみて思いついた、と。芸人の世界は、こんなにキラキラしていないです! それに、生々しくてリアリティがありすぎます(笑)。ただ、忘れちゃいけない大切なことを思い出させてくれた小説でしたね」

 今作『ノウイットオール』は、同じ街・同じ時代を舞台にした、5つの異なるジャンルの短編からなる「1つの物語」だ。

 その第2章〈イチウケ!〉の主人公は、高校生漫才コンビ「ニケトロフィー」の土橋千尋と浅黄葉由。好きな女子を紹介するから、という理由で、お笑いの世界に誘われ、コンビを結成し、M-1グランプリ出場を目指していた。「高校生のうちに決勝へ」ということに猛烈にこだわる葉由。二人はぶつかりながらも練習を重ね、M-1に挑む。

『ノウイットオール』(森バジル著、文藝春秋)

「キラキラした葉由ちゃんと土橋君の話は、まさに青春ど真ん中でしたね。今の僕は、『ライブ会場にどれだけ多くのお客さんに来てもらうか』『テレビに出演したときに結果を出すか』『YouTubeの登録者数を増やすか』そんなことばかりを考えていますが、芸人になることを夢見ていた10代の頃のことを思い出しました」