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「千のギャグを持つ男」の原点は

 Yes! アキトは、北海道で過ごしていた中学時代から、お笑いコンビを組んで、芸人への道を夢みていたという。

「僕には兄が3人いるんですけれど、年が離れていて、物心がついたときには家に、僕とおばあちゃんしかいなかった。いつも椅子に座って、すこしぼんやりしているおばあちゃんを笑わせたくて、壁際にあったソファに駆け寄って、ポンっと手をついて、逆立ちをしたんです。すると、おばあちゃんが強烈な拍手をしてくれたんです。嬉しくて、またやる。そしたらまた拍手がくる。おばあちゃんは、まるで音に反応するフラワーロック人形ですよ(笑)。それがちょっと嬉しくてね、3時間くらいやってました」

©文藝春秋

「ダブルパチンコ」「餃子人間」「赤ちゃんの滝行」など、『千のギャグを持つ男』として、知られる異能のギャガーYes! アキトの原点だった。

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「〈イチウケ!〉のなかで、主人公の葉由ちゃんが、どうしてお笑い芸人になりたいのか。なぜ高校生のうちに、M-1決勝に進みたいのか。その理由が、小説を読んでいても、ピンとこなかったんですよね。さっきはちょっと〈いい話〉みたいにしゃべりましたけれど、お笑い芸人を目指す理由って、金を稼ぎたい、女にもてたい、が多いと思うんです。

 ところが、今回の高校生二人の話のラストの圧倒的な『美しさ』には、驚きました。こんなキラキラに輝いたラストがあるの? って。これを、怪奇!YesどんぐりRPGの単独ライブをみて、思いついたって、嘘でしょう(笑)。これから読む方に、言っときます。僕たちのライブとまったくちがいますからね」

©文藝春秋

「定食に勝手についてきたザーサイ」のような小説

 第2章まで読んだYes! アキトは、一気に最後まで読み終えたという。

「『ノウイットオール』は、5つの短篇がぐちゃぐちゃに絡まって、あるお話から、枝が伸びて、それが忘れた頃に繋がって。ちょっと難しいなって思ったり、これがこうなるの? って、快楽を感じたり。まるで脳を構成するニューロン(神経細胞)みたいでしたよ。芸人が登場する小説だから、読みはじめましたけれど、第3章のSF小説とか、第4章の幻想小説とか普段なら読まない。たとえるなら、中華料理屋さんで、定食を頼んで、勝手についてきたザーサイがむちゃくちゃ美味しかった、というか。そんな一冊でした」