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「こんなときだから、ライブみたいな気分で作ったものを届けます」――又吉直樹、書き下ろし『Perch』に込めた想いとは?

 2020年3月末、「旅のお供にしてもらえたら」そんな気分で書き下ろした作品集を発売しようとした矢先、新型コロナウイルスで世界が一変した。

 9月26日に発売が決まり、いまあらためて、最新作を書きながら感じていたこと、そして、ライブを禁じられた状況、それでも伝えていきたいと想いを新たにしたこと。さらには、ウィズコロナの時代だからこそ生まれるはずの表現の可能性について語っていただきました。

又吉直樹さん ©深野未季

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お客さんに観てもらうことの大事さを感じてた

――『Perch(パーチ)』は、なんとも手づくり感あふれる本ですね。掌サイズで、紙やフォント、装丁も凝ってる。いかに楽しんでつくられたものかが伝わってきます。なかみは短編小説に連作掌編、エッセイや自由律俳句まで、「又吉直樹詰め合わせ」の一冊です。蔦屋書店でのみ限定販売するという、小規模流通誌「Zine」のようなつくり方をされていますが、これはどんないきさつで誕生したのでしょうか。

又吉 小説もエッセイも、なんでも自由に書ける、芸人でいうとライブに近い場所が欲しかったんです。僕、寄席とは別に、月に一回『実験の夜』というライブを長年やっているんですが、ここは、その時どきに思いついたものをとりあえず一度やってみる場所なんです。まず、お客さんに観てもらって、反応をもらう。ここがあるから、芸人・又吉直樹が存在できる。

 一方で、文章を書くことにおいては、ここ何年かそういった自由で身軽な場所を失っているという実感がありました。

 めちゃくちゃ準備して、失敗したら死ぬような場所……いや、実際そんなことはないんですけど、そういう緊張感をもって臨む場所と、実験できる創作の場。両方がないと、腰が重くなると思うんです。1年ライブをやらなかったら、次にコント1本やるだけでもめちゃくちゃ緊張する。周りの芸人を見ていても、やっぱり毎週のように新ネタを下ろしてるコンビはどこまでも強い。

 かつて、誰が読んでるかもわからんようなエッセイを書いてた時、僕、もっと自由やったよなと思うことがあって。訳わからんことも思いついたらすぐかたちにできていたけど、いまはそれをやる場所がない。そういう気ままに文章を書ける場所が欲しいなと思っていたタイミングで木村綾子さんからお話をいただいたんです。「羽田空港にできる書店さん、その場所に行かなければ買えない本をつくりませんか?」と。

「それやったら、こういうものはどうですか」と目次を提案しました。