昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

休むのは怖かった。でも、新しいかたちも見えてきた

――約1ヶ月で全編を書き下ろし、『Perch』が無事でき上がった2020年3月、コロナ禍により、オープンしたばかりの「羽田空港 蔦屋書店」の休業が決定し、吉本興業も期限未定で全公演を中止。『Perch』の発売も延期となりました。

又吉 先は見えませんでしたが、どうすることもできないので、ずっと家にいましたね。本を読んで、映画を観て、家の掃除をして、もしかして、いままでの人生の中でいちばん時間があったかもしれない。でも自分がいま、中高生やったらメッチャしんどかったやろうなと思うんですよ。僕の実家は狭かったから、そこに一日中家族と一緒にいることを考えると、ストレスが溜まりまくってたやろなと。

 いまはひとり暮らしで、部屋には好きな本も漫画も音楽もあるし、恵まれた環境でした。一方で、仕事から遠ざかっていることの怖さはありましたね。「あ、初めて仕事辞められそうな気がする」ということが頭をよぎりました。

 僕は実家帰っても、1泊しかしないし、なんやったら泊まらないで帰るんです。深夜2時、3時頃、母親が眠りに就いたら実家を出ていました。家に泊まってしまうと、「もう全部イヤや」と、そのままそこにおってしまいそうな恐怖感がある。緊張感を途切れさせるのが怖かったんですね。

©深野未季

 今回は東京のひとり暮らしの家で、それに近い感覚を味わってしまった。「この先また外に出て、あんまり知らん人としゃべって仕事するのがイメージできひん」みたいな。最後は結構ギリギリだったかもしれません。ひたすらゾンビドラマの『ウォーキング・デッド』を観て、おまけにむちゃくちゃハマってもうて……最近僕が書くものには全部ゾンビが出てきます。

――短期間に集中して新しい作品を書きあげた直後に、歯車が止まるような日々が訪れた。

又吉 東京百景』(2013年)の時も、2ヶ月で約50本のエッセイを書き下ろしましたが、今回もそれに次ぐスケジュールと作業量でした。でも、実はそういうことが大事なんじゃないかと思いました。

 いまも現役で、第一線で書いている人って、もしかしたらそういう状態がずっと続いてるんじゃないですかね。小説家の角田光代さんとお話しした時、自分も量産した時期があった、そういう時期は絶対必要だった、という意味のことをおっしゃっていました。それを何年も続けてきたから、ここからは1本1本を丁寧に書いていこうという気持ちになったと。僕もそういう時期が必要なんやと思ってます。書きまくる時期を自分で作らないとダメなんでしょうね。四の五の言わずにやり続ける時間を作らないと、エンジンが死んでしまう可能性があります。