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――『Perch』には、「天使の話」と対になるような短編小説「めふぃすと」も収録されています。勢いと速度があって、次の長編小説を期待させる小説としか言いようがない作品でした。『人間』という、自分の頭からつま先まで書き切った、いままでのすべてを詰め込んだと思える小説を書いた後に、又吉直樹は「何を書くのか」ということを思っていました。しかし、ここに収められている短編小説を読んで、その自由さと軽やかさに、これからの作品がより楽しみになりました。

又吉 年齢的なこともあるかもしれないけど、『人間』でまさに、これまでの自分のすべてを出し切ったという気持ちがありました。同時に『人間』を書きながら、小説に対して随分自由になることができました。失敗しようが、何を言われようが、自分がその作品を信じ、その表現に対して全体重を乗せて書けばいい、何を書いてもいいんだという状況に持っていきたいと思っていました。

 これまで、『火花』、『劇場』、『人間』という3作の長編小説を書いてきました。個人的な内面、頭の中を書いていくのは僕がいちばん好きな小説のスタイルですから、5年後、10年後、また同じやり方で書いているかもしれません。でも一方で、実はコントも書いているし、エッセイも書いてきた。もうちょっと自分の表現を太くしたいというのがいまの気持ちです。よく考えたら、最近ずっと小説を書いていたから、エッセイもあんまり書いてなかった。『Perch』の中にも4本のエッセイを書き下ろしましたが、めっちゃ楽しかったんですよ。

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©深野未季

僕はまた、新たな場所を探してやっていかんとダメなんですけどね

――「エセーの雲を抜けて」というタイトルで4本を括ってはいますが、それぞれに実に奔放に書かれていて、小説のようでもありました。

又吉 そんな意識すらなかった。確かにエッセイらしいエッセイではないかもしれないです。

――つまり、そんなことも考えずに伸びやかにやれたと?

又吉 そうですね。僕、いま、「あいつ今度はどんな球投げるんやろ」と同時に「どのくらい打たれんのやろ」という目で見られてると思うんです。それはそれでいい。でも、本来あるべき、ひたすらおもしろいものを見たい人と、おもしろいことをやりたい人間の正しいマッチングは実現できたらいいなとも思う。もちろん、自分のことを誰も知らんような場に行って表現することも大事やと思いますが。

 もともと文芸誌って、そういう場所やったんかなと思うんです。そこで新しいことをやってみて、反応を見ながら本にしていく。でも、いまぐらいジャッジが厳しくなると、そうもいかない。『Perch』も定期的に出す本ではないから、僕はまた、新たな場所を探してやっていかんとダメなんですけどね。