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「俺を訴えるなら、その前に神仏を訴えろ」と…悪びれない「賽銭泥棒」の態度が豹変したわけ

『怪談和尚の京都怪奇譚 妖幻の間篇』#2

2023/08/02

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書

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突然聞こえてきた、女性の声

 部屋に一人でいると、突然女性の声が聞こえて来たというのです。

「分かるよね。私の気持ち、分かるよね」と。

 その声は、男性の耳元で聞こえるそうなんですが、もちろん部屋には誰もおられません。

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 男性が恐怖を覚えながら、部屋中を見回していたその時、突然、手首に冷たい何かが巻き付いたように感じたそうです。

 何だろうと見ると、 手首から先しかない女性の手が、男性の手首をギュッと握っていたらしいのです。

 男性は恐怖のあまりその手を払いのけると、手はボトッと床に落ちて、スッと消えたといいます。

©iStock.com

「あれは間違いなく、あの手紙を書いた女性が亡くなった後、気持ちが分かると言ったので私についてきたのだと思います。何もできない私を頼ってきたんです。どうかご住職、今までの賽銭は全部返しますし、お布施もちゃんとするので、お経をあげてもらえませんか」

 そう言いに来られたそうなんです。

 ご住職は驚きながらも、

「そうですか。分かりました。お経をあげさせて貰いましょう」

 と言い、お経をあげられたという事です。

 お経をあげた後、ご住職は男性にこんな話をされました。

「あなたは、神仏に裏切られたと言われましたね。お賽銭をあれだけしたのに、自分には何もしてくれない。そうお考えでしたよね」

 そう言うと、男性は黙って頷かれたそうです。