伯母の元夫の渡辺和彦さん宅に放火し死なせたという2件目の殺人事件は、一倉大悟被告(32)が逮捕される2021年4月25日の未明に起きた。その日まで、内妻と共同購入した赤坂のマンションの持ち分買い取りの名目で、和彦さんには合計3500万円を借りていた。だが大悟被告は恩を仇で返すがごとく、密かに和彦さん宅からさまざまな物を奪い取っていた。(全2回の2回目/前編から続く)
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殺害を決意した身勝手な理由
「被告人は和彦さん宅から、絵画を盗み取ったり、和彦さんの母親のクレジットカードや時計などを無断で持ち出していた。このクレジットカードを富士子被告に使わせ、ロレックスを購入し、買取店で売った。さらに『価値が高い』と和彦さんから聞いていた2枚の絵画を盗み、富士子とともに買取店で売った」(検察側冒頭陳述)
そのうえ、またもや身勝手な理由で殺害を決意する。
「和彦さんは、絵画やクレジットカードの紛失は被告人の仕業では、と疑っていた。クレジットカードについては被害金額を弁償することで和彦さんに許してもらえたが、絵画については現物が戻ってこなければ、被害届は取り下げないと言われていた。さらに、和彦さんのクレジットカードも無断で使用したと問い詰められ、貸した金の返済期限を短縮すると告げられたため、不満に思い、殺害を決意した」(同前)
母親は「首を絞められて、殺されると思った」
事件当日、大悟被告はなぜか母親の富士子被告も現場に連れて行こうとしていた。赤坂からベンツを走らせ、千葉県市川市の実家に向かった。当然ながら富士子被告は「絶対に行かない」と言い、和彦さん殺害同行に応じない。このため大悟被告から激しい暴力を受け、縛られた。
富士子被告はこの時の様子を、証人出廷して語っている。ひとり息子である大悟被告に対して「怖い気持ちがある」とのことで、別室からリモートでの尋問が行われた。
「スリーパーホールドのように首を絞められて、殺されると思った。その後、足で胴を羽交い締めにされてボキボキっと音がしました。さるぐつわをされ、ガムテープで口の周りをぐるぐるに巻かれた。『文句言ったら鼻も塞ぐぞ』と言われたので、それだけは勘弁してくれと懇願しました……。縛られてから『ママのために計画が大幅にずれた』と怒られ『2時間後に戻るからここにいろ』と言って出て行きました」(富士子被告の証言)