この間、大悟被告は和彦さん宅に出向き、火を放った。2階寝室で眠っていた和彦さんは火に気付き、自ら119番通報したが、それから電話口で意識を失った。富士子被告が部屋から脱出し、近所宅に駆け込んだことで、大悟被告の行方を探し始めた警察は、同日に市川市内を歩いていた大悟被告を発見し、緊急逮捕した。
「火をつけた記憶はない」と主張
事件から2年3ヶ月が経った。市川市内の住宅街の一角にある和彦さん宅は、いまも焼けたまま残る。2階の屋根は焼け落ち、かつて部屋だったところに、夏の厳しい日差しが降り注いでいる。
この和彦さん殺害事件について大悟被告は、当時何があったかを語ろうとはしなかった。起訴事実を認めてはいるが「火をつけた記憶はない」と繰り返していた。「大悟は海外生活が長く、英語が得意。英語と日本語の割合は半々ぐらいだった」と元内妻が調書に語っていたとおり、時折ネイティブな発音の英語を繰り出しながら、身振り手振りも交え、被告人質問で証言していた。
「気がついた時にはすごい火が出ていて、びっくりして逃げた。そこで我に返りました。気が動転して、通報しなかった」
一見すると“普通の爽やかな青年”
柔らかい生地の濃紺ジャケットの下に、白いTシャツ。チノパンにマスク姿。一見すると普通の爽やかな青年だ。無軌道な一連の事件とのギャップが大きい。和彦さん宅に火を付ける前、スマホで燃焼動画などを閲覧していることもわかっているが、彼は「アメリカ人が自分の家を燃やす動画を見ました。そこからソファが燃えるのかと検索した覚えもあります。だからといって、そういう訳ではない」と、計画的な犯行であることを否定し続けていた。さらには「事件前にネット検索していない、矛盾している。証拠は間違っていると思う」などと検察官を指差しながら力説していた。
事件の日に何があったか、“記憶がない”という大悟被告の口からは語られなかったが、和彦さんの大事にしていた絵画を盗んだことで怒りを買ったことは、自覚していたようだった。