なぜ大都市では分かりやすい“不景気の光景”がないのか
大都市ではわかりづらい不景気の影響だが、それでも目をこらしてみると傷口が見えてきた。
上海市の七浦路服飾商業街。小さなアパレル卸売ショップが無数に詰め込まれたビルが、10棟以上もひしめき合っている、華東地方最大の衣料品卸売市場だ。ネット販売時代にもしぶとく生き残っていて、2018年時点で日に200~300トンもの衣料品を出荷していたという。ここから出荷された衣料品が中国津々浦々の個人経営の服屋さん、激安ネットショップで販売されている。
以前にも訪問したことがあるが、巨大な荷物を電動三輪車で運ぶ配送のお兄さん、人目を気にせず服を着替えては販売サイト掲載用の写真を撮る女性店員さんなど、活気あふれる光景が楽しいマーケットだ。
昨年の上海ロックダウン期間中にはショップ経営者たちが「仕事はできないのに、テナント料は払えっていうのはむごい」と抗議活動を行ったと報じられていたが、果たして健在なのだろうか。
訪ねてみると、相変わらずにぎわっているように見えた。客は少ないが、それはコロナ前も同じ。商売の大半はネットで完結しているからだ……などと納得していたのだが、ビルの中に分け入ってみると、まったく違う光景が見えた。
一棟まるまる空っぽのビル……上海中心部にちょっとした“廃墟”が
1階はテナントがぎっしり詰まっているビルでも2階、3階とあがっていくと、段々と空きテナントが目立っていく。最上階まで行くともぬけの殻で電源が落とされていたビルもあった。倉庫として使われている場所もちらほら。そればかりか、ちょっと外れた場所にある人気がないビルだと、一棟まるまる空っぽになっていることも。上海市の中心部にちょっとした“廃墟”が誕生していた。
この手のマーケットはテナントの所有者が中小企業や個人であることが多く、また利用料を支払った後の又貸しもあるため、店舗の入れ替わりが激しい。下層階の店舗が抜けると、上層階から移ってきたり、人気のないマーケットから引っ越してきたりするため、人気があるところは変わらずぎっしりお店が詰まり、それ以外は廃墟化していくのだという。