1ページ目から読む
3/5ページ目

 似たような光景を広東省深圳市で見た。深圳市には秋葉原を模して作ったという世界最大の電気街・華強北がある。大小30ものビルに小さなショップがぎっしり詰まっている。実はその一部が最近、化粧品市場に代わっている。お隣の香港から輸入(密輸入品も含め)した商品を卸売するマーケットだ。その化粧品卸売市場を見て回ったが、やはり上層階に行けばいくほど、お店は減り廃墟化している。

深圳市の電気街・華強北の一角にある輸入化粧品卸売市場。上層階はもぬけの殻 ©高口康太

 普通に生活している限りでは、中国人でも卸売市場の奥底まで分け入ることは少ない。結果として、あまり廃墟は人目につかないというわけだ。

今までの中国不景気とは異なる“でっかい爆弾”

 上海市や深圳市のド真ん中に廃墟化した市場がある……と聞くと、中国経済はもうオワコンと思われるかもしれない。ただ、この手の零細事業者による商売はともかく足が早い。潮の満ち引きのように、活況になると店が増え不況になると消えていく。これから中国政府の景気対策が本格化していくと、こないだまでの廃墟が一転して大にぎわいの市場に代わっていることも十分にありえる。

ADVERTISEMENT

 このスピード感は、中国ネタを扱う書き手にとっては悩みのタネでもある。ちょっといいネタを仕入れたと思っても、少し寝かしていただけで状況が180度変わっていることもざらだ。

 ただ、今回の不景気には、今までとはちょっと違うこと、長引きそうなでっかい爆弾がある。それが不動産だ。中国政府は2020年初頭、新型コロナウイルスの流行を受けて金融緩和に踏み切ったが、注入されたマネーによって不動産価格が一気に上がってしまった。これは危ないと、2020年8月に不動産業界に対する規制を打ち出したところ、これが効きすぎて今度は不動産バブルがはじけそうになっている。2021年末に顕在化した大手不動産デベロッパー・恒大集団の危機は日本でも大きく報じられたが、1年半が過ぎた今も危機は過ぎ去っていない。それどころか、中国不動産業界全体の不景気感は強まるばかりだ。社会主義国・中国ではもともと不動産は買うものではなく、お国から割り当てられるものだった。自由な取引が始まったのは20世紀末のこと。それから四半世紀にわたり、右肩あがりだった不動産市場がついに下がるかもしれないという激震が広がっている。

 この不動産の危機を象徴するのも廃墟だ。というわけで、久々の旅で、中国経済の転換点を体感できる、ゴージャスな廃墟を見物してきた。