7月28日に公開された映画『658km、陽子の旅』で初の邦画単独主演を務めた菊地凛子。22年振りにタッグを組んだ熊切和嘉監督と思わず涙を流し改めて感じた“変わらない初心”、そして日米両国でキャリアを積み重ねる彼女が見たエンタメ業界の現状を尋ねた。(全2回の2回目/前編を読む)

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海外と日本の撮影現場と感じた違い

――『ノルウェイの森』(2010)は熱狂的な原作ファンを持つ作品なので、単に演技をするだけではなく、そういった周囲の期待も背負いこまなければならなかったんじゃないですか?

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菊地 それに関してはわりと他人事みたいな感じでしたね。オーディションを通じて厳選された上でいただいた役だし、選んだのはトラン(・アン・ユン監督)でしょうって。結局、役を演じることに関してはいつも変わらなくて、自分の根底にあるものを探ったり、想像したりしながら、役の襞みたいなものをひとつひとつ具体的に捉えていくしかないんです。

 そのためには他の誰のものでもない、自分という楽器を精一杯使う方法を考えなきゃいけないし、そこに別の要素を入れたらいいパフォーマンスにならない。不必要なことは考えないようにしていたと思います。

©榎本麻美/文藝春秋

――『ノルウェイの森』以降も、『パシフィック・リム』(2013)や、インディペンデント・スピリット賞主演女優賞にノミネートされた『トレジャーハンター・クミコ』(2014)など、海外の作品に次々と出演しました。海外の現場と日本の現場の違いをどう感じていましたか?

菊地 役に没頭できる環境の違いかなと思います。自分は海外の言葉をそこまで理解できないから、現場で言葉が飛び交っていても、私だけひとり自分の部屋の中にいるような感覚になれるんです。カメラの前にいたら、ずっとほっとかれているような感覚で、すごく集中できるんですよね。その点では海外のほうが、脇目も振らずに役に没頭できて、いいパフォーマンスにつなげられるのかなって。

 でも日本では、周囲の話をすべて理解できるし、映画を一緒に作っている感覚が強くあって、撮影部がやりたいこと、録音部がやりたいこと、私ができることならいろいろなスタッフの思いをかなえたいと単純に思ってしまいますから。そういう点では、ただカメラの前で演技をしていればいいというわけではないと思います。

「ここ10年くらいは具体的に進むことが少なかったな」

――デビュー直後のオーディションでは、演技うんぬんよりも美しさを求められたという話がありましたが、そういった違いも感じますか?