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彼女の答えは……

菊地 役がどうやってそこに至ったのか、そこでどんなものを見ているのか、それが具体的であればあるほど肉になっていくから、そうやって具体化する作業はすごく大事にしています。自分と異なる人間を理解して、演じることは楽しい。基本的には楽しんでやっている気がしますね。

――感情の記憶と想像力、演技のためにより多く用いるのはどちらですか?

菊地 想像力だと思います。想像して、自分という楽器を使うから、そこで頭と体の折り合いがつくようになると思うんです。もちろん両方必要ですけど、自分が作業としてやっているのは想像すること。想像して具体的に見るというか、そうやって見たものを立体化することです。

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©榎本麻美/文藝春秋

――俳優にとくに必要なのは感性ですか、技術ですか?

菊地 感性と言いたいところですけど、私はコツコツと作業していくタイプなんですよね。ただ、例えば雪が降ってきたりとか、現場で初めて出くわすものもあって、そういうものに触れたときに出てくるのは、そこまでに培われてきた感性なのかもしれません。

――近年、映画界は大きく変化していて、とくにハリウッドでは女性やLGBTQ、アジア系を含む人種・民族的マイノリティの権利を広く尊重する方向に進んでいます。ハリウッドで活動してきたアジア系の女性の俳優として、その変化をどう受け止めていますか?

菊地 自分がアカデミー賞にノミネートされたときとは比べものにならないくらい、授賞式にアジア系の人たちがたくさん参加していて、単純にいい時代が来たなと思いました。エンターテイメントがより多種多様なものであるためには、多種多様な人たちの権利が認められるべきですよね。

©榎本麻美/文藝春秋

 一方で、当事者でなければその役を演じられない傾向が強まっていくと……。自分とは異なる人のことを考えて、演じることで、その人の痛みや苦しみに共感できると私は思っているんです。そういう役を演じたり、そういう作品を観たりすることで、立場の異なる人たちと手をつなげる。私はそうやって映画を観てきたし、そういう作品に心を動かされてきました。エンターテイメントも、社会も、大事なのは異なるものを受け入れる寛容さなんでしょうね。

撮影 榎本麻美/文藝春秋
スタイリスト 小嶋智子
ヘアメイク 中村了太(3rd)
衣装協力 CFCL

INFORMATION

菊地凛子が主演を務める映画『658km、陽子の旅』が7月28日に公開されます。
https://culture-pub.jp/yokotabi.movie/