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「あれほど死にたいと思っていたぼくが生きようと思えている」薬物依存症に苦しむ清原和博を救った次男のランニング・ホームラン

『薬物依存症の日々』より #3

2023/08/11

source : 文春文庫

genre : ニュース, スポーツ, 社会

はじめてのランニング・ホームラン

 あれは夕方を過ぎたころだったでしょうか。

 携帯電話にメッセージが届きました。元妻の亜希が、中学2年生の次男の動画を送ってきてくれたんです。

 次男は今、都内の硬式野球チームに所属しています。その日は練習試合だったんですが、そこでホームランを打った。しかも滅多に出ないランニング・ホームランを打った。まさにその瞬間の動画を送ってくれたんです。

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 今のぼくは息子が野球をやっているグラウンドには観に行くことができません。そんなぼくのために、ホームランを報せてくれたんです。

 霧がバーッと晴れていくような感覚でした。

 亜希によれば1試合目にフル出場して、2試合目は代打で出ていったそうです。その打席でライト前に打った打球を突っ込んできた相手が後逸し、ボールが転々としている間にホームまで還ってきたんです。

 はじめてのランニング・ホームラン。

 2月2日がぼくにとってどういう日なのか、息子はとくに意識していなかったと思うんですけど、ぼくにとっては涙が出るくらいにうれしいことでした。寒々とした外の景色がまったく別のものに見えるような、そんな出来事でした。

「もし次、ホームランを打ったら……」

 その数日前に、息子にそんな話をしていたところだったんです。

 そこでまさかホームランを、しかも2月2日に打ってくれるなんて……。

©文藝春秋

どんな治療薬よりも…

 ぼくはその出来事を何かのメッセージだと受け止めました。

 いつまでもくよくよしていても仕方がないんだと、息子がそうやって背中を押してくれたような気がしたんです。

 今までなら2月2日は逮捕された日で、人生最悪の日で、沈んだ気持ちのまま終わっていくはずでした。それがこれからはずっと、息子がホームランを打ってくれた日として過ごすことができるんです。

 この4年間、ぼくに起こったもっとも大きな出来事をひとつあげるなら、それはやはりふたりの息子と再会できたことです。一度は失ってしまったこの世でいちばん大切なものと、もう一度繫(つな)がれるようになったことです。

 薬物依存症とそれにともなううつ病との戦いのなかで、朝昼晩、いろいろな薬を飲んできました。主治医の先生をはじめ多くの専門家の話を聞いてきました。ただ、どんな治療よりも劇的にぼくを変えたのが、息子たちと会えたことです。

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