一昨年、走行中の電車内で立て続けに起こった2件の無差別刺傷事件について、今年6月から東京地裁と東京地裁立川支部でそれぞれ、裁判員裁判が行われていた。
2021年8月、小田急小田原線の車両内で事件を起こしたのは対馬悠介被告(37)。刃渡り約20センチの包丁で当時20~52歳の乗客3人を襲い、殺害しようとした殺人未遂罪のほか、複数の万引きやその未遂をしたという窃盗罪などに問われていた。東京地裁の裁判員裁判で、中尾佳久裁判長は7月14日に懲役19年の判決を言い渡している(求刑懲役20年)。
東京地裁立川支部では、2021年10月31日、ハロウィンの夜に京王線の車両内で乗客を刺し、車内に火をつけた服部恭太被告(26)の裁判員裁判。映画『バットマン』の悪役、ジョーカーに扮したスーツを身にまとい犯行に及んだ彼は、殺人未遂のほか現住建造物等放火などの罪に問われ、東京地裁立川支部(竹下雄裁判長)で7月31日に懲役23年の判決が言い渡された(求刑懲役25年)。
住むところも年齢も異なるふたりの被告はそれぞれ事件前に「大量殺人」を目論んでいたという。(全2回の2回目/前編から続く)
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対馬被告が起こした事件を知り、名古屋経由で上京
服部恭太被告は2018年から勤めていたコールセンターのチャット窓口業務を2021年7月に辞め、同月末に「東京に行く」と家族に伝え、住んでいた福岡県から東に向かっていた。退職の意向を会社に伝えたのは6月。この翌日、サバイバルナイフを注文していた。彼は彼で、もともと大量殺人を目論んでいた。
当初は「ハロウィン当日に、ごったがえしている渋谷で無差別に人を切りつけて殺害する」という計画だったが、滞在していた神戸で対馬被告の事件のニュースに触れ、計画を変更したと、東京地裁立川支部での被告人質問で明かした。
「犯行場所を電車の中にすることと、オイルを撒いて火を付けるという内容が影響を受けています」
すぐに東京に向かわなかったのは、オリンピックの影響で「警備が厳しいかなと」思ったからだという。小田急線で対馬被告が起こした事件を知った服部被告は、名古屋を経由して上京。ライターオイルや殺虫スプレーを準備し、ジョーカーになり切るため、紫色のスーツやグリーンのシャツ、そして手袋も揃えた。