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公判には黒髪の坊主頭で現れた

 公判では黒っぽいスーツに白いワイシャツ、黒髪の坊主頭でこうした詳細をよどみなく語る服部被告によれば、事件当日はジョーカースーツに身を包み、京王線調布駅から新宿行きの特急電車、後方車両に乗り込んだ。現在は千歳烏山にも停車する京王線特急は当時、調布駅から明大前まで止まらなかった。その間に乗客を先頭部分に追い込もうと考えていたという。優先席に荷物を下ろし、ナイフと殺虫スプレーを手に取り、近くにいた72歳男性を刺した。

 小田急線で対馬被告が起こした事件の記憶も新しい頃、逃げる乗客が車両連結部分に集まっていた。準備していたライターオイルを撒き、スーツから取り出したライターに火をつけた。ところがライターを床に投げる前に、自分の手袋に引火してしまったのだった。これで彼の計画は終わった。

「驚いた。びっくりした。正直、手が燃えると思ってなかったので驚いて呆然としてしまった。そこから、ようやく焦りが出てきて、オイルを撒いた方向にライターを投げました」(被告人質問での証言)

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「その時点で計画が失敗に終わっていた」

 だが被告の手袋が燃えている間に、近くにいた乗客も遠ざかっていた。床の火から出ていた煙が喉に入る感覚を覚えた被告は「危険を感じて後ろに行った」(同前)という。

「その時点で計画が失敗に終わっていた。落ち込んでいたのもある。これ以上人に危害を加える気持ちは全く残っていませんでした」(同前)

 小田急線の対馬悠介被告は仕事を転々とする中、18時から朝5時まで続くパン工場のアルバイトに限界を感じ、生活保護へと至った。自分だけが「貧乏くじを引いている」と感じ、万引きも許されると考えるようになっていったというのだが、ジョーカーに扮した服部被告のほうは、自分が死刑になるために、犯行に及んだと明かした。

 服部被告は、女子にいじめられていると感じていた中学の頃と、高校卒業後に勤めた職場の女性らとの人間関係がうまくいかなかった頃、自殺を図った。自身が幼少期から抱いていた苦悩を、被告人質問でこう語る。

「小学校高学年頃から、クラスメイトとの関係が悪くなった。住んでいた家が古くゴキブリが出るような家で、ランドセルの中から虫が出てきたのがきっかけで、女子生徒は離れていった。男子とは、遊ぶ頻度が少なくなった」