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クマの鼻息がして、テントにこぶし大の穴が…

 16時30分、豊田さんがテントから5、6メートルのところにクマを発見。最初は興味本位で観察していたが、クマがテントの外にあったキスリングを漁り始めたため、隙をみてこれを取り返し、火を焚き、ラジオを大音量で流し、追い払った。だがその夜――。

〈二一・〇〇 熊の鼻息がし、テントに一回だけ触れ、こぶし大の穴があく。この夜は二人ずつ見張りをし、二時間交替で寝る〉(前出・福岡大「報告書」)

 翌26日早朝にもクマは再び現れ、今度は大胆にもテントに手をかけてきた。

〈我々はテントが倒されないよう、ポールをしっかり握りテントの幕をつかんでいた。五分くらい引っ張り合っていた〉(同前)

 たまらず5人は、テントの反対側から逃げ出す。50メートルほど走り、振り返ると

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〈熊はテントを倒し、その中にあるキスリングをあさっていた〉(同前)

 豊田さんは、原さんと山口さんに沢を下り、営林署などでハンターを要請するよう指示。2人は沢を下っている途中で、下山しようとしていた北海学園大学のメンバーと出会う。前出の手記でB氏は、そのときの様子をこう綴っている。

〈あの時の●●君(クマに殺された)の驚ききった真っ蒼な顔が、いまでもありありと写るのである〉

写真はイメージ ©iStock.com

「ギャー!」「畜生!」と叫び声が

 救助連絡を快諾した北海学園大学グループは、2人に食料やガソリンなどを渡している。吉田氏が語る。

「危ないから一緒に降りよう、という話はしたと思います。でも彼らは『まだ上に仲間がいるから』と。せめて何かの足しになれば、と渡しました。(彼らの様子は)取り乱した様子はなかったと思います」

 その後、山口さん、原さんは再び沢を上り、3人と合流。テントを設営し、夕食をすませ、寝る準備をしていた16時30分ごろ、クマは3度やってきた。5人はテントを離れ、八の沢カールにテントを張っていた鳥取大学に泊めてもらうべく、稜線を下り始めた。

 いつの間にか、クマは背後10メートルにいた。

 一斉に逃げる5人。だが、その途中で、それぞれバラバラになってしまう。

〈一斉にカールのほうに逃げると直ぐ、這松のなかで「ギャー!」と叫び声が聞こえる(●●らしい)。30秒位這松の中でゴソゴソし、その後●●が「畜生!」とさけびながら熊に追われカールに向かっていた〉(前出・「報告書」)

 そしてクマはその後、豊田さん、工藤さんを次々と襲ったのである。