今年の東京マラソンの主役は、もちろん設楽悠太(ホンダ)だった。2時間6分11秒をマークし、16年ぶりに日本記録を更新。日本実業団陸上連合から1億円の報奨金が贈られることも話題となっている。

 そんななか、今回の記録更新を当然とばかりに見つめていた集団がいる。「設楽悠太、日本新出しますよ!」。レース前からそう断言していた駅伝好き集団「EKIDEN News」の3人だ。設楽の学生時代からずっと見続けてきた、主宰の西本武司さん、駅伝マニアさん、ポールさんが、マニアックな視点で記録達成までのストーリーを語り合う。彼らはなぜ日本新をずばりと当てることができたのか、そして設楽悠太はどこまで記録を伸ばせるのか――。

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ポイントは2015年北京での惨敗

西本 今回の東京マラソン、僕らは設楽悠太が絶対に日本新記録を出すと予想していたんです。設楽はレース前々日の記者会見では「勝つことが大事。先頭集団について行けば必ず記録もついてくる」と記録に対してはあんまり求めてない言い方をしてましたが、僕らから見たら「出る」としか言いようがなかった。今回はそれぞれの視点から説明していきましょう。

ポール 「予言」の種明かしですね。

西本 まず、ひとつ目のポイントはかなりさかのぼります。きっかけは、2015年8月に北京で行われた世界陸上10000mでの惨敗です。

マニア ああ、そこですね。

2015年北京世界陸上10000mに出場した設楽悠太(右から3人目) ©西本武司

西本 このレース、最初は設楽悠太と村山謙太(旭化成)が先頭に立つんです。「おおっ!積極的にいくな!」と思ったら、入りの1kmのタイムは2分54秒。ふたりにとってはジョグに近いペースです。

マニア 先頭に立ったというよりは、他の選手がゆっくりすぎて、自然と前に出されてしまった感じで。

西本 僕らも「あれ? こんな感じで行くの?」って思っていたら、どんどんペースアップして、ラスト1kmはなんと2分28秒! 結果、優勝したモー・ファラー(モハメド・ファラー)に設楽と村山は2回周回遅れにされているんです。

僕らも打ちのめされてボロボロ

マニア いや、これほぼ3回じゃないですか? モー・ファラーのゴールタイムは27分1秒13。設楽は30分8秒ですから、約3分の差がある。ということは1000m、トラック2周半分ですから。しかも設楽の順位は最下位。設楽の前が村山謙太、辛うじて1回の周回遅れで済んだのが鎧坂哲哉(旭化成)です。

西本 10kmのトラックレースで世界と戦うためには、1000m近くもの差を縮めないといけないんですよ。真夏の北京というコンディションで27分1秒13。極寒の八王子、法政大学のトラックで生まれた村山紘太の日本記録が27分29秒69ですよ。

マニア 心が折れますよね、1回の周回遅れなら仕方ないけど2回も周回されるのは……。現地で観戦した僕らも打ちのめされて、ボロボロになって宿に帰りました。だって日本選手権で後続をあれだけ引き離して、独走で優勝した鎧坂でさえ周回遅れなんですよ。

最下位に終わった設楽悠太 ©西本武司