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棺に入らないご遺体もあった

――万が一、家族や大切な人が凄惨な事件や事故に巻き込まれたら……と考えると、決して対岸の火事ではない。統美さんのような存在がいることを知っているのと知らないのとでは、まったく変わってきます。

染谷 私たちは、本当にさまざまなケースのご遺体を修復する。そのため、おのずとエビデンスが蓄積されていく。水死で亡くなった方にはこういう修復をすれば大丈夫だろうとか、事故の方はこの素材を使えば生前のお顔に近づけられるとか、自分たちの中で経験知として積み重ねてきたものがある。

 あるときは、お釈迦様のような体勢で凍結してしまっているご遺体と対面したこともありました。固まってしまっているので棺に入らない、なんとか納棺してほしいと。

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――我々では想像もできないようなケースもあるんですね……。

染谷 皆さんが驚かれるようなケースも含め、さまざまなケースがあるんです。

――素朴な疑問なのですが、お二方でも血の気が引く――という場合もあるのでしょうか?

角田 ありますよ。対面した瞬間、時間が止まるというか。

染谷 それでも諦めちゃいけないんですよね。

角田 「どうすればいいのだろう」と困惑するような状態を目の当たりにして、「生前のお姿に近づけたい」という一心で修復するけれど、欠損しているわけですから、元のようには戻らない。私たちも悔しいんですよ。ですから、最後の砦と言っていただいているけど、私たちはまだまだ技術が足りていないと思っています。常に葛藤はあります。

修復の方法は、試行錯誤の連続

修復の際に使用している医療器具 ©文藝春秋

――しかし、先ほど遺体の修復前と修復後の研修用のスライド写真を拝見させていただきましたが、「ここまで復元できるのか」と驚きました。水死や電車への飛び込みなどで亡くなり、大きく損傷されているご遺体もありましたが、修復後の姿は血が通っているように見えるから不思議です。形成外科的なスキルや、美術的な感覚が問われるのでしょうか?