ドラマや映画でも見たことがないようなご遺体と向き合う
――とはいえ、大きく損傷したご遺体を目にするケースもあるわけで、心理的にはシビアな現場だと思います。
角田 そうですね。耐えられなくて、辞めた人もたくさんいます。
染谷 視覚的なショックだけでなく、嗅いだこともないにおいを体験することもありますね。遺体修復師になれば、ドラマや映画でも見たことがないようなご遺体と向き合うことになりますから。
さまざまな病で長く闘病されていた方のご遺体も、普通に暮らしていたら目にすることはめったにないでしょう。たとえば、左目にがん腫瘍があった方のご遺体は、手術で摘出した腫瘍部分が大きくえぐれて、お体もかなり痩せてしまっていました。ご遺体の修復を希望された方は、故人さまが生前元気だった頃の姿に思いを馳せて、その状態でお別れをすることにやりきれなさを抱えているわけです。
遺体修復師はそのようなご遺体と数多く向き合うわけですから、精神的に強くないと厳しい現場だと思います。
「どんな亡くなり方でも人は人」
角田 研修生の皆さんにも言いますけど、「どんな亡くなり方でも人は人だよ」と。慣れる慣れないではなくて、理解できるか理解できないかの世界だと思います。私たちだって慣れることはありません。ただ、目の前にある遺体がどのような状態でも、人であるということを理解する。
――コロナ禍の影響についても、うかがわせてください。新型コロナで亡くなられたご遺体というのは、どのように接していたのでしょうか?
染谷 コロナに感染されたご遺体は、病院から納体袋に入れられて運ばれてくるのですが、当初は防護服を着ながらの作業……といっても、自分たちができることといったら、ドライアイスを替えることくらいでした。棺も目張りされていますし、棺自体にも消毒をしなければいけない状況でしたね。
角田 コロナで亡くなった方のご遺体は触るな、見るな、開けるなという状況だったので、私たちの仕事の意義は何なんだろうという歯がゆさがずっとありました。何も施せないこと、ご遺族とも対面させてあげることができないことが悔しくて。