染谷 ご依頼に応じてですね。私たちとしては、仏衣をちゃんと着せて、旅のお支度を整えてあげたい。
角田 こういった場合、ご遺族は修復を希望されるというよりも、最後に棺にお花入れをしてお別れがしたいと。その状況だけでも作ってほしいということが少なくないです。
白骨化しているご遺体を修復すると時間がかかりますし、費用もかかってしまいます。そのため、「お花入れができるくらい」と相談いただければ、要望に沿いながら行わせていただきます。
ご遺体の情報が全くないことも
――ご遺族の心の持ち方、社会的な課題、いろいろなことが見えてきますね。
角田 そうだと思います。また、老々介護の果てに亡くなる方も増えています。たとえば、老々介護をしていたご両親を一度に亡くされた方の場合。介護していたお父さまが人知れずご自宅で急に亡くなり、その1か月後、介護を受けられなくなって亡くなったお母さまのご遺体と一緒に見つかったことがありました。こういったケースでは生前の健康状態とは関係なく、先に亡くなられたであろうお父さまのご遺体のほうが状態が悪くなってしまう。
――そういう情報というのは、葬儀社から統美さんに?
角田 情報共有として入ってきます。ただ、まったく情報がないことも多いですよ。
――詳細はわからないけど、「こういう状況です」と?
染谷 はい。ご遺族としては「きちんとお別れできるように、なんとかしてほしい」というご依頼ですね。
「やりがいと歯がゆさがありますよね」
角田 もし自分の子どもだったら、自分の親だったら――と想像すると、なんとかしてほしいって思いますよね。ただでさえ、人が亡くなることは悲しいのに、見られない悲しさを残してはいけないし、会えない悲しさを残してはいけない。でも、やっぱり生前の姿を完璧に再現することはできない。やりがいと歯がゆさがありますよね。
染谷 自分たちとしては「ご遺族の思いに応えられたのかな」「もうちょっと頑張れたんじゃないか」と、故人さまを送り出した後もいろいろと葛藤します。火葬すれば、お体はなくなってしまいます。ですから、どんな状況であっても、私どもはあきらめたくない。
最後にもう一度元気だった頃の姿に会いたい――その思いが我々のモチベーションになっています。納棺業というのは、まだ十分に認知されていません。こういう仕事があるということを、一人でも多くの方に知っていただけたら、私たちもうれしいです。