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犬のように食べ、穴に向かって排泄する

 暴れっぷりが度を超していると判断されたときは、保護房という最悪な部屋に連れていかれる。廣瀬に言わせれば「ヘンな人」扱いされるところだ。そこでは両手を縛られ、食事は紙皿にご飯やおかず、味噌汁までのせられた状態で出され、手を使わずに食べなければならない。口のまわりが汚れても拭き取ることさえできない。

 犬のような姿勢で食事をさせる? 映画の『女囚さそり』シリーズでそんな描写を見た記憶があるけれど、実際にそんなことが行われているのか。

「あはは、信じられないでしょう。でも、あれはリアルな描写なんですよ。手を縛られた状態で、トイレはどうやってすると思う? 便器は床にただ穴が開いているだけですよ」

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 難しい質問だ。下着をどうするか。排泄(はいせつ)後のトイレットペーパーの使い方もわからない。まさか、穴の下にウォシュレットが装備されているわけでもないだろうし。

 正解はシンプルなものだった。縛られた状態でしゃがみ、ただ穴に向かってする。以上、終わり。拭いたりしない。それで済むように下着はつけない。

「当然、拭いてももらえずそのまんま。一日中叫んで暴れて、犬のようにメシ食って、穴に向かって排泄する」

 保護房にいるとき、入浴は15日に1度。普通は週に2度(夏は3度)だからその差は歴然としている。まさに不潔を絵に描いたような環境だ。

「仮釈放をやるから静かにしてくれ」と言われたが

 では、保護房で人を人として扱わないような罰を与えれば効果があるのか。おそらく、効果があると見なされているから存在するのだろう。しかし、廣瀬にかぎっていえば、憎悪の炎が収まることも反省して出直しを誓うこともなく、問題のある受刑者が集合するうるさい寮と、犬小屋並みの保護房を行き来するばかりだった。

 ある日、そのことを不思議に思った幹部刑務官に呼ばれ、尋ねられた。

「廣瀬、おまえはそんなやつじゃないだろう。介護とか、係の仕事をちゃんとやれていた人間だろう。なぜこれほど騒ぐんだ」

 聞く耳を持つ相手と接するのはひさしぶりのこと。廣瀬はこのときとばかりに経緯を話し、些細(ささい)なことで仮釈放を取り消されるようではやっていられないと訴えた。すると、めずらしいことに話が通じ、面談の最後には、「仮釈放をやるから静かにしてくれ」と言われたそうだ。満期までは残り2カ月あるが、静かにすれば1カ月だけ仮釈放にしてやろうという提案だった。

 これは温情だろうか。それとも、全体に悪影響を及ぼしかねない受刑者をおとなしくさせるときのマニュアル通りの措置だろうか。