ACEが成人後の健康に与える影響とは?
この調査結果によって、さらに驚くべきことに、ACEと成人後の健康問題との明らかな関連が見いだされました。
フェリッティらが1998年に発表した論文では、9508人(有効回答率:71%)を対象に、7つのACE(身体的・心理的・性的虐待、母親への暴力、家族の薬物乱用・精神疾患・服役)が健康に与える影響が検討されています。結果の一部をまとめたものが、図1-1と図1-2です。
ここで示される「オッズ比」とは、事象の「起こりやすさ」を2つのグループ間で比較した指標のことをいいます。
1より大きい値であればあるほど、注目するグループのほうが比較対象とするグループに比べて、その事象が「起きやすい」ことを表します。
また、「調整オッズ比」とは、他の要因の影響を取り除いた場合のオッズ比をいいます。ここでは、年齢、性別、人種、学歴の影響が除去されたうえで、ACEが病気・健康リスク行動に与える直接的な影響が検討されています。
その結果、ACEが「4以上」の人は「0」の人に比べて、「虚血性心疾患」は2・2倍、「がん」は1・9倍、「脳卒中」は2・4倍、「慢性肺疾患」は3・9倍、「糖尿病」は1・6倍なりやすいという結果でした(図1-1)。高ACEスコアの人は、代表的な死因にもなりえるこれらの病気に罹りやすいということです。
また、ACEが「4以上」の人は「0」の人に比べて、「アルコール依存」は7・4倍、「薬物注射」は10・3倍、「50人以上の人との性交渉」は3・2倍起こりやすいという結果も得られました(図1-2)。高ACEスコアの人は、何かに対する依存傾向も生じやすいといえます。
メンタルヘルスに関しても、ACEが「4以上」の人は「0」の人に比べて、「うつ病」は4・6倍、「自殺未遂」は12・2倍起こりやすいというきわめて高い数値も得られています(図1-2)。高ACEスコアの人が、不安定なメンタル状態になりやすいことがわかります。
このように、ACEスコアが高いほど、成人期に疾病に罹りやすくなったり、健康に対してリスクとなる行動をとったり、精神状態を悪化させやすい傾向が見いだされました。
これを、ACEと不健康の「用量反応関係(dose-response relationship)」といいます。
このように、ACEへの曝露が健康に与える負の影響を検討するために用いられているアプローチは、「累積リスクモデル」と呼ばれます。ポイントは、特定のACEの「種類」ではなく、ACEに曝された「量」に焦点を当てている点です。この累積リスクモデルは、ACEへの曝露の量と不健康の間の関連(用量反応関係)を明らかにするうえで有用です。
また、逆境の重なり(共起)という観点から、誰が最もリスクに曝されているかを特定しようとするアプローチであるといえます。