ワンオペは過酷にみえるが…
しかし、ワンオペは過酷に見える。YouTubeに「そば切り八代」の営業を追った動画があるのだが、1日18時間は働いているというから驚きである。
21時の営業終了後から、店内掃除、そして、23時からタネもの(※)の仕込みを開始する。玄そばの殻剥きや製粉をして、ふるいにかけてそば粉を作る。深夜に翌日のそばを打ち、午前3時過ぎにようやく終えて、午前9時にはまた仕込みを開始する。
※そば・うどんにのせる天ぷらなどの具材のこと。あるいはそれらをのせたそば・うどん自体を意味する。
店のカウンター下に見慣れない「クリーントーミ」という機械が置いてある。訊いてみると玄そばとそばの枝や葉っぱなどを選別する機械だという。手打ちそば屋に置いてあるのを初めてみた。なんでも自分でやってしまわないと気が済まない性分なのだろう。
そんな過酷そうな仕事も「もう慣れたので苦痛はない。美味いものを作るのに楽はできませんよ」と伊藤店主は言い放つ。
「そば切り八代」のこれから目指すところ
「そば切り八代」はこの9月で3年目を迎える。ようやく大山界隈の人々に認知されてきたところだろう。
京急青物横丁駅近くにある手打ち立ち食いそば屋「そば切りうちば」の店主・中村英司さんは伊藤店主の後輩だというし、他にも独立して人気店を経営している仲間も多いという。
「来年からは秋田県の農家と契約した玄そばを使おうと考えています。軌道にのれば食材をさらに良いものにしたり、いろいろチャレンジしていきたい」と伊藤店主は熱くしかも淡々と語る。「もちろんワンオペでいいというわけではなく、商売が軌道に乗ればアルバイトを入れて、値段は抑えたままやっていきたい」とも付け加えた。
ウクライナ紛争やコロナ禍によって、そば粉を含むあらゆる食材が値上がりしている。安く良心的にという伊藤店主の願いもなかなかハードルが高い時代になりつつある。しかし、どんな逆境にも負けない美味いそばを提供するという思いは微動だにしないように思えた。清々しく潔い決断を胸に秘めた伊藤店主の今後をウォッチしていこうと思う次第である。
INFORMATION
「そば切り八代」
住所:東京都板橋区大山東町59-7
営業時間:11:30~14:00、17:00~21:00
定休日:なし(不定休)