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「あまり僕に期待しない方がいいと思います」

 そんな中嶋監督の「異質」な名将の資質に僕が初めて気づいたのは2020年8月21日。前監督の辞任を受けて彼がオリックスの一軍監督代行に就任した時のインタビューだ。その受け答えはあまりに鮮烈だった。一部を抜粋すると、

(質問:監督代行をやれと言われてどう感じたか?)

中嶋「もう正直、無理だと思いました」

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(質問:チームを立て直せという福良GMの言葉を受けてご自身の思いは?)

中嶋「不安しかないですけど」

(質問:昨夜は考えることが多かったのでは?)

中嶋「何から始めていいのか、どこが問題なのか、その全てをいきなり一日で把握することは無理なので」

(質問:キーマンとなる選手は?)

中嶋「全員です。もちろん全員でやりますし、二軍にもまだまだ選手いますしそれを全部自分ではわかっているつもりなので本当にいい選手を使っていきたいと思います」

(質問:二軍で好調な若手の一軍抜擢もあるのか?)

中嶋「若い選手を使いたいという気持ちはもちろんあるんですけど、今一軍にいる選手がしっかりとした壁となって、それを超えたら使いたいと思います。ただ若いというだけでは力はつきませんので。チャンスはもちろん与えますけれどもそれを超えられないんだったらそこはまた違うと思うんで」

(質問:勝利と育成のバランスは?)

中嶋「そこに挑戦していくのが我々の仕事なのでどっちも取りにいきたいと思います」

(質問:監督代行に期待するファンへメッセージを)

中嶋「あまり僕に期待しない方がいいと思います。期待するなら選手にしてほしいなと思います」

 僕はこの中嶋監督代行の就任初日の言葉を聞いて鳥肌が立った。所属するあらゆる選手のモチベーションを上げる言葉の力。プロ野球という「ゲームの本質」を正確に見抜く力。そして何より一切自分を飾ろうとしない、自分を大きく見せようとしない、失敗した時の予防線を張ろうとしない、自然体で、自分への「嘘」のない、シャイでユーモアに溢れた圧倒的な人間力。これこそ「令和の名将」のあるべき姿だと強く確信した。

愛するプロ野球チームに「本物のリーダー」がいる日々

 あの日から3年。悲惨な暗黒時代は終わり、眩しいほどの黄金時代を迎えたオリックス・バファローズ。多くのオリックスファンが永遠に中嶋監督だったらいいのにと願っている今日この頃。もちろん僕もその一人だ。

 だが中嶋監督は3連覇に満足など絶対にしていない。なぜならオリックスはまだ中嶋監督が思い描く「強いチーム」になどなっていないからだ。評論家諸氏の間で話題のオリックス日替わり打線など中嶋監督の本意であろうはずもない。中嶋監督が安心してポジションを預けられるレギュラー野手がまだほとんどいない、というだけの話だ。中嶋オリックスの理想への旅路は未だ果てしなく遠い。どこまで行けるのか。それは誰にもわからないが僕は中嶋聡というオリックスの救世主に最後までついていくと決めている。真のリーダーと出会えるチャンスなど人生でそうそうないのだから。

 国家、職場、学校、バイト先、趣味の集まりなどどんな組織であろうとそれが人間の集合体である限り、つまらぬリーダーの下にいると人々は幸せな日々を送ることができない。最近の権力者たちや「ビッグモーター」社長親子を見ていれば一目瞭然。つまらぬリーダーは自己保身と身内の金銭的メリットのためだけに権力にしがみつき、上に立つ人間の浅薄な志は現場の人間や関係者に多大な苦痛と犠牲を強いることになる。

 それゆえ高い志を持ち続けられる「本物のリーダー」はどのような金銀財宝より貴重なのだ。そんな奇跡のような男が自分の愛するプロ野球チームの監督にいる日々。これを幸せと言わずなんと言おうか。

 今年のペナントレースもあとわずか。CS・日本シリーズもワクワクが止まらない。でもそれより何よりオリックスファンとして中嶋監督と共に戦える日々を大切にしたい。ゲンナリするようなニュースが溢れ返る日本で、そんなことをしみじみ考える秋の一日なのです。

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