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世界一の、トップで闘える選手になりたい

 そんな尾形投手は、今年の春『トッププレイヤー計画』と題し、世界一の選手をめざすべく目標を掲げた。

 普段から、例えばメジャーで活躍する大谷翔平選手や元ホークスの千賀滉大投手のような“トップの選手”なら「ここでどういう選択をし、どういう行動をとるか」と考えながら生活をする、というものだ。練習の日も、リカバリーの日も世界一の投手になるためにはどうしたらいいかを常に考えて行動する。マウンドでの姿をみながら、お顔がシュッとされたなぁとは思っていたが、食生活も改善し体脂肪率も落ちたそうだ。コンビニで食べ物を選ぶときですら、「トップの選手ならば何を選ぶか」と考えている。

 その話を聞きながら、いつも欲望に負けて脂質と糖質におぼれている自分を深く反省したが、『心の回復』のためにもその時の状況によっては食べたいものを食べるらしい。(ちなみに私は心のために、好きなものを食べ続ける)

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 大きな目標を決め、月ごとに「ストレートの球速を156キロにする」「コントロールを改善する」など細かい目標を決めながらアプリなどを活用し、クリアしていっている。

 振り返れば去年のシーズン終了時、尾形投手の1軍での登板数は9試合だった。

 緊急登板など、プレッシャーのかかるシチュエーションで貴重な経験を積んだものの、「『開幕1軍に入りたい』、『1軍に定着したい』……という目先の目標にとらわれている『自分の考えの小ささ』に気づき、衝撃を受けた」という。

 そこはあくまで課程に過ぎないのに、いつのまにか目標になってしまっている。

「このままでは、良くてちょっとだけ活躍したところで自分は終わってしまう」。

 危機感を覚え、これからどうなっていきたいか……去年の秋から自分の本心と向き合い“世界一の、トップで闘える選手になりたい”と「心と体の本能」に気づいたところからの「トッププレイヤー計画」だった。

 大きな最終目標をひとつ決めることで目の前で起こることに気持ちがブレることが少なくなり、より具体的にやらなければいけないことがみえてくるタイプ、だと自身について分かったことも大きな収穫だった。

「1軍の日本シリーズの最終戦で自分は投げているんだ」

 そんな中迎えたプロ6年目の今季は、小久保裕紀2軍監督も「尾形が打たれたらしょうがない」と話しシーズンのMVPのひとりに名前をあげるほど、2軍戦でクローザーとして安定したピッチングをみせ、ウエスタン・リーグでセーブ王のタイトルを獲得した。

 先日、そのホークスの2軍が3年ぶりの優勝を決めた試合で、1点リードの9回に登板し試合のラストを三者連続三振でしめ、マウンド上で雄たけびをあげたのも尾形投手だった。

 私も現地で取材していた。

 8回裏の攻撃で味方が勝ち越した直後、独特の緊迫感と客席の盛り上がりの中「1軍の日本シリーズの最終戦で自分は投げているんだ」とイメージしていたという、魂のこもったしびれるようなピッチングに鳥肌とワクワクが止まらなかった。

 観ていたファンの方々もきっと同じ気持ちだったと思う。

 近い将来、必ず1軍の舞台で同じ光景を見せてくれる……! そんな気がした。

ウエスタン・リーグ優勝が決まった時 ©川崎優

 すべてのことはなりたい自分になるための過程であり、どんな失敗も成功もどんなことがあってもそれは全部最終目標へ繋げていけばいい。1軍でも2軍でも、3軍でも……自分のあがったマウンドの価値は変わらない。どこにいようが『いずれトップのクローザーになる』というイメージを描きながら全力で立ち続けていることが、少しずつ報われてきているのを尾形投手自身も確かに肌で感じている。

 去年取材した時と比べて、ぐっとひきしまり堂々とした表情の尾形投手は、1年で大きく進化していた。

『チョコの中、散歩♪』の考案者である尾形投手が繰り出すギャグは、チームメイトの空気を時として凍らせるらしいが、そのあたりもブレずに果敢に世界一に挑戦し続けていってほしい……と私は心の片隅で祈っている。

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